2008年1月7日月曜日

まとちゃん

 昨日、『プレヒストリック・パーク』を見て思わず漏らした感想 — 、虫がたまらん。いや、喜んでるんじゃなくて、逆。だってさ、体長が三メートル近いヤスデですぜ。ひっくり返したら脚がワシャワシャうごいてるの。うわ、耐えられないわ。けれど、そんな番組見ながら、あああの子ならきっと喜びそうだと思っていて、それって誰かというと……、えっと、私らの世代で虫、娘とくると、ほぼ自動的に虫愛づる姫君ナウシカを思い出すものなんですが、そうではなかったのです。私が思い出していた娘というのは、まとちゃん。結城心一の漫画『まとちゃん』のヒロインである高原馬頭子です。いやあ、この子がもう部類の虫好きなんです。もう、耐えられんほど虫好きなんです。

『まとちゃん』は、まとちゃんとその周辺の小学生が織り成す、不条理だったり、あるいは妙に現実味あふれる、いやそれは実に虫に関した事柄に集中していたりして、そんなとこリアルであってくれなくていいんですが、読んでるとですね、ぞわぞわしてくるんですよ、背筋らへんが。まとちゃん、不思議系とでもいったらいいのか、ちょっとなに考えてるかわからない感じの子で、いやそんなことないな、この子の考えてることっていったらたいがいが虫絡みだ。いったいどういうところに虫がいるかをよく心得ていて、しかしそれを筆箱にしまうのはやめて欲しい。

そんな子、実際いるけどさ(女の子では珍しいけど)。私だって子供の頃は虫捕まえたりは普通のことで、虫かごに突っ込んでおいたカマキリの卵嚢、幼虫が一斉に孵化してバイオハザード起こしたり、共食い誘発させたり、また捕まえるまでもなく、毒性のある花の汁でもって大量虐殺したり、いろいろしたけど、今はもう無理。できればかかわり合いになりたくないというのが正直なところで、でもまとちゃんみたいな子が身近にあればいやでも関わらざるを得ないよな。ああ、やちほ先生の心労が偲ばれます。

つうわけで、『まとちゃん』は心穏やかに読めたことが一度たりともありません。うわあ、とか、ぐわあ、とか、勘弁して、とか、そんなこと思いながら読んでいて、けどたまらんのはヨタボールよな。ええと、ヨタボール、表紙に出てます。まとちゃんが乗ってるのがそれ。だから、私は絶対帯はずしません。ヨタボールがなにかぴんとこないっていう人は、差し当たりメガボールあたりをキーワードにして検索してみてください。そう、この手のものが好きなんです、まとちゃんは。私は、ちょっと耐えられないわあ。東南アジアとかマダガスカルに生息する生物らしいですが、お願いだから国内に持ち込むのは勘弁してください。繁殖したりして、ほら温暖化だなんかで日本も暑くなってきてるから、下手したら普通にそこらに定着しちゃいそうで、でもこんなのに出くわしたら卒倒はさすがにないだろうけど、軽くパニック起こすだろうなあ。ナイジェルみたいに、体当たりで捕獲なんて絶対無理。

とこんなわけで、私とまとちゃんは趣味が合わないのです。

って、虫だけで終わってしまってもなんなので。『まとちゃん』は虫だけが持ち味じゃありません。奇妙に現実から乖離した、けれどどこかで見たことのありそうな、マニアックな非日常センスが付与されることで、なんともいえない不思議空間の入り口を開く、そういう漫画でもあります。それも淡々とした描写で、いつもの日常のりに直結させてくれるから、ありえないことがありそうで、けどそれはあくまでも非日常であるわけで、しかしそれは日常と同じ地平に共存していて、一種悪夢めいた奇妙な具合に仕上がっている。いい感じに脳みそを攪拌してくれます。

あ、そうだ、これも書いとかないと。『まとちゃん』は一巻ものですが、実質的にその続きといえる『ちろちゃん』も出ています。まとちゃんは主役の座をおりますが、それでも存在感は健在です。というか、ちろちゃんの天敵だよな。

  • 結城心一『まとちゃん』(REXコミックス) 東京:一迅社,2006年。
  • 結城心一『ちろちゃん』第1巻 (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス) 東京:一迅社,2007年。
  • 以下続刊

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