割と評判がいいようだったので『百合姫Wildrose』を購入してみたところ、ちょっと私には合わないみたいで、残念でした。けれど、収録のものすべてが性に合わないわけでなく、なかには結構いいなと思えるものもいくつかあって、ちょっと視野が広がるきっかけになったかな? さて視野が広がるといえば、『Wildrose』には森島明子も参加していて、森島明子、私にとっては四コマ誌でなじみの作家であるのですが、いわゆる百合ものにおける森島明子はこれが初遭遇。四コマとはまた違ったスタイルでお描きなんですね。確かに画風は森島明子であるのだけど、より繊細なタッチが新鮮で、こういうのも悪くないかもなあ。そう思ったものだから、丁度刊行されたところの『楽園の条件』、手にしたのでした。
買おうかどうか迷っていた『楽園の条件』を読むきっかけを作ってくれた、これだけでも『Wildrose』を買った甲斐があったというものです。先ほどもいいましたとおり、森島明子の繊細なタッチが新鮮。そして、出てくる女性たちがまたよくてですね、この人の得意なのかも知れませんが、さばさばとした女性には女臭い女性を、若くて素直な女性にはちょっととうが立って屈折気味の女性をといった感じに、対照的なパーソナリティを合わせてくるのですが、これが見事なマッチ具合であるのです。われ鍋にとじ蓋といったら表現は悪いけれど、お互いが自分の人生を生きながら、それでいて相手を求めている。欠点も含めて自分の持っているものはこれとこれとこれで、けれどそれでは満ち足りないから、私はあなたを必要としてしまうのだ、といったらいいのかな。最終的に、そう感じられる関係が成立していると思われたのは、やはり作者の目指したところが、そうしたところだったからなのでしょう。
パートナーに対しその人を必要と思うのは、依存しているからじゃないんです。溺れるのではなく、自分の立ち位置を時に確かめながら、二人にとっての最適の距離を、一番心地いいと思える関係を模索していく、そういう感触が読んでいて優しく触れてくるようで、たいへんよかったと思います。そしてこうした感触は、既存の関係の鋳型をではなく、私たちにとってのベストを目指そう、新しいライフスタイルの創造っていったらいいのかな、そういうみずみずしい関係しかたへの可能性を開こうという意欲が生み出しているように感じます。
この漫画が百合ものだから、なおさらそう感じられたのかも知れません。理想とは異なり、なかなか対等とはいかない男女間の現実の重苦しさ。そういうものを感じているから、これら創作の分野においては、新たな関係性の可能性を思わせて欲しいものだ、そんな風に思う私には、女性間ないしは男性間の恋愛ものの持つある種対等なあり方に引かれてしまうのかも知れません。『楽園の条件』に収録された漫画は、その点すごく徹底していまして、年齢や立場等による差が生じたとしても、いったん相手を好きになってしまえば、そうしたものは吹っ飛んで、対等になっちゃうんだよということが、きっぱりと描かれていました。そう、本当は男女間でも一緒なんですけど、恋しちゃえば立場とかなんとかまるでどうでもよくなっちゃうんですよね。けれど、それでも因習というかなんかの力で、現実に落とされてしまう関係がある。だから時には夢を見たいと、こうしたものに触れるのだとしたら、あまりにも後ろ向きすぎるかも知れません。
でもはっきりいえるのは、『楽園の条件』において、森島明子は、こと恋愛を描くことに関し、たいへんな上手であったということです。純粋に感情のからみあう小品は、非常に感受性に優れて、読んでいるこちらからして仕合せな気持ちに包まれるようでした。私はこの文章を書くにあたって、やたら百合ものという言葉を使ってきたけれど、この本はそうした枠を抜きにして評価されるべきものであろうと思っています。より一般的な地平においての恋愛ものとして読むことのできる、そういう一冊です。
- 森島明子『楽園の条件』(IDコミックス/百合姫コミックス) 東京:一迅社,2007年。
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