2008年1月30日水曜日

ナツノクモ

 ナツノクモ』が終わりましたね。2008年1月30日、今日、ついに最終巻が発売されて、私はものすごい量の加筆があるんじゃないか、それこそ『広辞苑』級の厚さになってたらどうしよう、いやむしろそうであって、なんて思ってたけど、やっぱり普通の厚さでした。ちょっと残念。けどそれが妥当かもなあ。

私が『ナツノクモ』を知ったのは、2005年9月のことでした。『空談師』で書いた時、ちょっと調べてみたら『ナツノクモ』なんていうのがある。またオンラインゲームものらしい。買ったのは2005年10月。それからの二年あまり、私はこの漫画に魅了されっぱなしでした。感情を揺さぶる、魂に訴えかける、どのようにいったらうまくその感覚を伝えられるでしょう。いずれにせよ、まぎれもなく一番続きが気になる漫画であり続けて、そして多少の飢餓感をともに終了。これを満足させるには単行本、最終巻しかないと、待ちに待ち続けての今日でありました。

そして最終巻。おのずと興味は加筆部分に向かったものの、それは思った以上に少なく、基本的には連載時に同じです。けれど、それでも加筆部分、大きかったと思う。語り切れなかった部分はいろいろあったというお話ですが、もしその隠された部分を明らかにするだけの猶予があったとしたら、いったいどういう話が展開されたのだろう。興味はつきませんが、しかしその語り切れなかったことがこの漫画の価値を、致命的に落とすことはなかったと思う、そういう感触の残るラストシーンでありました。正直私は、今の姿でも傑作、名作であるといえる、それだけの力を持った作品であると思っています。けど、やっぱりね、もしすべてを描き切ることができたら、篠房六郎完全燃焼、それだけの舞台が氏に与えられていたら、もう、もう、それこそ尋常でない、屈指の作になったんではないか。いや、あんまりこういうこというのはやめましょう。不毛だし、潔くないよ。ただ一言ここでいっておきたいことは、ファンだ好きだなんだといいながら、氏を支えることのできなかった、自分自身の不甲斐なさですね。ファンにもできることがある。ならそれをきっちりやっておくべきでしたね。大変申し訳ない、そういう思いを私はいまだに拭えずにいます。

さあ、もう書いてもいいよね。最終話に向けてのラッシュ。次々と明らかになる動物園の過去、そしてコイル/トルクの背負っていた現実について。再建された動物園を守るため、激闘に身を投じた彼らを支えたものはなにであったのかについて。いえ、戦いはもうとっくに始まっていたのでした。コイルが動物園を訪れる以前に、動物園という入れ物をではなく、そこに集う人間を守ろうとする戦いが開始されていました。その一方に、自分たちを繋ぐものの弱さを思い知った者たちがいました。強い絆に思えたそれは、実際にはそうではなかった。ネットワークを離れればたやすく切れてしまう、そんな儚い繋がり。それでも繋がり続けることでお互いを守ろうと、身を寄せあうようにした彼ら。孤独な戦いと、お互いを守りあおうという思いが、再建された動物園で出会い、そしてその場に集まったのが動物園残党とふたつの盗賊団、そしてクランク、コイルであったのですね。

本当のことをいうと、私はやっぱり、篠房六郎の引く線で、描く絵で、語る言葉でその結末を知りたかった。しかし現実にそれはかなわないとなったから、氏は決着を未来に託したのだと思います。すべての未来は、それまでの過去と現在の先に生じます。ええ、これまでに描かれたタランテラボードでの出来事が、来たる未来を予感させます。最後のシーン、あの子が向かった先で行われる戦い、おそらくは最後の戦い、これにクランクの狡知、大作戦がどれほどの成果をあげるのか、それはわからない。けど、勝つにせよ負けるにせよ、きっと彼らは大丈夫だ。そう思えるだけの信頼はすでにできあがっています。

コイルという、本当に信頼できる大人に出会えたガウル。ガウルに、怖れを越えて向き合うことのできたコイル。そして、彼らのそばにあって、ひっそりと見守り続けた彼女。すべては変化しました。本当の意味での信頼が戦いに参加した彼らを繋ぎ合わせて、そしてすべてはネットワークというか細い糸に支えられた空虚な世界での出来事であったはずなのに、関係の糸はネットワークを超えて広がりを見せ、オンライン世界は仮想なんかじゃない、現実の世界に繋がるものだってあるのだということを、明確に見せてくれました。

弱いと思われた絆が確かなものに変わろうとする可能性を感じさせたラストは、まぎれもなく屈指のものでありました。だから私は、そのラストシーンの先に起こることについて、不安は感じていません。きっとすべてはうまく運ぶに違いない。それだけの信頼を勝ち取ったのは、それまでに積み上げられたものが確かだったから。だから私はいうのです。

『ナツノクモ』は名作です。強靱にして柔軟な、まぎれもなく素晴らしい作品です。

  • 篠房六郎『ナツノクモ』第1巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第2巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第3巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第4巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第5巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第6巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2006年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第7巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2006年。
  • 篠房六郎『ナツノクモ』第8巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2007年。

2 件のコメント:

yujirockets さんのコメント...

さっそく注文しましたよ。読むのが楽しみで、でも読んだら終わりになっちゃうのが少し寂しい。そんな気持です。

matsuyuki さんのコメント...

そろそろ到着して読み終わられた頃なんではないかと思いますが、いかがでしたでしょう。多分初見では、あれよあれよと進む話に、入り乱れて押し寄せる情報の量に、翻弄されることかと思います。

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