芳文社だけでも月に大量に発売される四コマ漫画誌。最初は1誌しか読んでいなかったのに、気づけば2誌3誌と増えていって、ついには発売されているもの、ほぼ全部に手を出すはめになってしまって、というのはよくある話。これを当時はやった言葉、デフレスパイラルにならって、四コマスパイラルなどと呼んだりしたものでした。流行り言葉は移ろいやすいもので、今どきデフレスパイラルなんていってる人はついぞ見ませんが、四コマスパイラルという言葉は未だ現役。本家を超えて生き残っているんですね。
四コマ誌には四コマスパイラルとやらに誘う危険な罠が仕掛けられているんですね。それは複数誌連載ってやつでして、人気のある漫画となると、系列誌にまたがって、2誌、3誌、並行して連載されていたりするんです。単行本とか買った時にわかるんですよ。あれ? 読んだことのないのが載ってる。四コマ漫画は単行本になるのに時間がかかるので、これ、面白い、もっと読みたい、そう思ったら、もう系列誌を買うしかない。こうして、まずは1誌、次いで2誌と講読するのを増やしていって、気づけば刊行されている四コマ誌の大半を講読するに至っている。危険ですよね。
私がそのスパイラルとやらにハマったの、きっかけはなんだったのかなあ。今、はっきりと思い出すことはできないのですが、けれど『まんがタイムファミリー』を講読するにいたったきっかけははっきりしていてます。『ラディカル・ホスピタル』ですよ。『まんがタイムラブリー』に送り込まれた刺客! それまでスパイラルにはハマるまいぞと必死で踏み止まってきたのが、ここで一気に瓦解して、もういいやあ、と次から次に四コマ誌を講読するようになった、かどうかはやっぱりさだかではないのですが、ある時期を境に一気に講読雑誌を増やしたのは確かです。でもって、次に起こることはなにかというと、気にいった作家の別タイトルに触れていくってやつで、『ラディカル・ホスピタル』を起点とすると、『ルリカ発進!』あたりが該当しますね。
『ラディカル・ホスピタル』は説明不要というか、今も連載が続いているというビッグタイトル中のビッグタイトル。当初は医師をメインに描いた漫画が、ナースをはじめとする病院スタッフ、さらには患者にいたるまで、周辺のキャラが確立していくことで、病院をめぐる人間模様が面白おかしく、時にシリアス、情感をともに描かれる、そんな幅の広い漫画となったんですね。なにがすごいって、未だに面白さが変わらない、いや、今なお発展中といったらいいのでしょうか、さらにさらに広がりを求めて伸びゆく、そんな底知れなさがあるんですよね。さりげなく自然体、当たり前みたいな感じで毎月載っている。その当たり前に見えるというの、相当なことだと思うのです。
『ルリカ発進!』も面白い漫画だったんですよ。こちらは派遣社員もの。派遣社員ルリカと出会って変わっていく職場模様、といったらあんまりにも簡単すぎる説明でしょうか。人それぞれの価値観の違いが描かれたりするところとか興味深く、そしてルリカにはちょっとドライな感じもあるのがなんだかかっこよかった。
この頃、2000年前後ですね、派遣社員ものの漫画は結構あったんですよ。『ルリカ発進!』に『派遣社員 松島喜久治』、すこし後に『派遣です!』、そしてご存じ『派遣戦士 山田のり子』といったところでしょうか。今も連載が続いてるのは『山のり』だけですね。
連載が終わるのには、それぞれ個別の理由があって、一概にどうだこうだということはできないわけですが、一時期はそれなりにジャンルを形成していた派遣社員ものが今はほぼ姿を見せなくなって、生き残っているのは人智を超えたスーパーマン、山田のり子というのはある種示唆的なものがある、そんなことを思ったりしてしまうのですね。思えば、2000年頃の派遣社員もの、ルリカや喜久治に顕著であるのですが、派遣社員という働き方に対し一種憧れを感じさせるようなニュアンスがありました。腕一本で生きていくといいましょうか、ひとつところに留まることなく、自由であること、自分のスタイルを重んじて、長いものには巻かれない。そんな風に生きられたらかっこいいなあ、みたいなひとつの理想が描かれていたのですね。
今、派遣社員にそうした憧れの職業といった感覚ってないですよね。むしろ、なんとかして正社員にあがりたい。そういった仕方なしにやるものという感覚の方が強い。こうした社会における派遣社員のポジションの変化が、今、派遣社員ものを成立させ得ない、あるいは描いたとしても2000年頃のものとはまるで違ったものにならざるを得ない要因になっているのだろうなあ、なんて思わせるのです。
すべてのもの、ことは、どれもいずれ変わりゆくもので、医療をとりまく環境も変わる、派遣のそれも変わる。けれど、それら変化とともに自身も変わり続いていくものがあれば、状況が変わったために続けられなくなるものもある。あるいは、あの時と同じようには見られなくなってしまうものがあるともいえるでしょうか。その差異というのはなんだろう、みたいなことを時に考えたりしています。
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