『まちカドまぞく』、これ、とても素晴しい。細かなネタの積み重ね、それが生み出す展開の妙。キャラクターの愛らしさ、憎めなさ、そうしたものも実に見事で、気がつけば、ヒロイン、吉田優子、いやさ、シャドウミストレス優子にすっかり心とらわれてしまっている始末。これは魔族として目覚めた彼女の力あってのことでありましょうか? いや、それはない。むしろ、彼女の優しさ、いたいけさに、自然と応援したくなってしまう。そうした気持ちあってのことでありましょう。そう、優子、すごくいい子なんです。敵対する魔法少女、千代田桃との激しい死闘の果てに彼女が掴むものとはいったいなんであろうか。ええ、彼女のゆくすえ、見届けねばなるまい、そうした気持ちにさせられるっていうんですよ!
しかし、だいたいからしておかしいですよね。名前が優子。優しい子。これね、お母さんもお母さんで、魔族の末裔だなんだってわかってるくせにさ、長女の名前は優子。次女はというと良子。どう考えたって、いい子に育ちますようにっていう願いがこめられてますよね!
しかもこの優子が、名前のとおりにといったらよいのでしょうか、とにもかくにもいい子に育ちまして、いや、けどちょっと優秀って感じにはならなかったみたいなんですけど、魔族として目覚めて以来、光の一族とやらに施された封印とやらを解かんと努力する。街の魔法少女に挑んでは負け、時にはほどこしを受けたり、特訓うけたりと、なんだろうなあ、このふたりの感じ。戦うべき敵、なんだろうとは思うんですけど、全然そんな敵対するみたいな感じにはならなくて、優子、いやさシャミ子は桃のこと敵視してはいるんだけど、全然相手にされてないし、ところどころに性格のよさ、育ちのよさみたいなもの見え隠れするシャミ子ですよ、ほだされるし、まるめこまれるし、そして時には手助けさえしてしまう。桃は桃で、シャミ子のこと、なんだか大切にしている感じさえある。戦いたくないんだな。でもって、それ、多分、桃の過去になんか関係あるんだ……。
その、いろいろある。シャミ子にもある。桃にもある。おそらくはシャミ子のご先祖、シャミ先にも、その父母にもあったりするんだと思う。まだ全然わからないよ。だから気になる。だけど、彼女らがこの先、酷いことになったりせずに、だんだんにその仲を深めて、魔法少女だ魔族だと、そうした因縁を超えた先にあるなにかを見出してくれると嬉しいなあ。ほんと、そんな気持ちにさせられるあたたかみがあるんです。
そもそもからして、私がこの漫画のこと好きになる要素っていうのはたくさんあった。そう思うんですね。ご町内ウォーズといいますか、敵もね、味方もね、おんなじご町内にいましてね、普段の近所づきあいがあったり、それで戦う時もそんなに酷いことにもならなくって、そういう関係性が大好きなんです。『まちカドまぞく』は、そのタイトルもいうように、そのご町内感に溢れていて、もしかしたらこの先には大変なこともあるのかも知れないけれど、きっと酷いことにはならないだろう。そんな信頼感があるといいますか、ほんと、シャミ子のいうとおり、みんなが仲良くなりますように。誰もがしあわせになって、なんのうれいもなく、素敵なハッピーエンドをむかえてほしい。そんな気持ちにさせられるんですね。
いやもう、それもこれも、シャミ子の、桃の、それからみんなの、あまりにいい子で、いい人で、素敵だからですよ。ほんと、素敵な漫画なんです。
- 伊藤いづも『まちカドまぞく』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2015年。
- 以下続刊
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