2023年3月24日金曜日

『まんがタイムきららフォワード』2023年5月号

 『まんがタイムきららフォワード』2023年5月号、発売されました。表紙は『球詠』。キャプテン岡田が真ん中、その左右に藤原、光がごろりとともに芝生に寝転んでいる情景です。3人の身のまわりにはボールが転がったりしていますが、穏やかな雰囲気、春の日射しに照らされている、そんなのどかでなごやかな様子に見ているこちらもつい笑顔を誘われるようなよさ持っています。しかし、藤原の笑顔がなんかいいですね。なんか妙に緩い。味のあるいい表情。のびやかな光も素敵です。

今月は新規ゲストが2本です。

『オンラインゲーム仲間が隣の席の怖い女の子だった話』

同じクラス、隣の席の女の子。いつも険しい顔をしていて、とっつきにくそうな印象のその子が使っていたペンが、自分もやっているオンラインゲームのグッズだったという意外性。まさかこの子も同じゲームやってるの!? 驚いてゲーム内のフレンドに話したことがきっかけで、隣の席の子、黒沢がゲーム内の友達、レッドビーンと判明していくそのくだり。よくあるパターンといっていいのかわからないけれど、それでも定番シチュとなるだけのよさがありました。

でも、読み進めていったらわかるんですが、この時点ですでに黒沢は、ゲーム内の友人、リョータが隣席の白井だと知ってるんですよね。わりと白井は黒沢について酷いこといってるんですけど、それも全部わかってる。それどころか、あえてペンでプレイヤーであること匂わせたりしてたのも、全部が全部、白井に気づかせる、興味を持たせるための振りだったと考える方が自然!

ええ、この状況、常に主導権を握ってるのは黒沢だったって最後にわかるの、すごくよかったです。

オンラインゲームで一緒にプレイしていたフレンドが、実はリアル知りあいでした系のお話はたくさんありますけど、偶然だった、世界は狭いね、みたいな展開もある中、この漫画は、たまたまなんかじゃないよ、むしろ白井のSNSアカウントバレからはじまっていたんだよ! という流れもまたよくって、そうなんですよ、黒沢が白井にコンタクトを取った、最初の最初から情報の格差は存在していて、だからこそゲーム内で仲を深めて、現実でも誤解が解かれて、そしてふたり仲良くなってという動線も納得感高く、読み切りの一話で充分無理なく読ませるものになったと感じています。

クライマックスの、レッドビーンの正体を知った白井の葛藤から、まさかの黒沢からの謝罪も意外性あって面白く読みました。白井も黒沢も、好感持てるキャラクターだったところもとてもよかったです。

『なんだ来てたの』

いい漫画ですね。大学の2年生。すでにはじまっている就職活動にどうにも乗り気になれない堀内綾が、一冊の本をきっかけとして出会った水谷貴子とだんだん友情を深めていくストーリー。最初の出会いこそは、貴子のあまりの強引さに驚かされたものですが、いやね、いくら自分が好きなマイナー作家の本を探している人がいたとしても、自分の大事な場所、隠れ家みたいな書庫にそのまま引き入れるとか、もし綾が悪いやつだったらどうするの!? ほんと、心配したんですが、その後の貴子の言動もろもろ見ていけば、ああ、この人はブレーキがついてない系のオタクだ。自分の思いそのままに突っ走る。そんな貴子が、綾との出会いに、この人は手放してはいけない人だと思ってしまったからこそ、この物語は動き出したんだなと納得させられるものあったのでした。

なんせ、貴子さん、ものすごい。自分の蔵書、読書空間確保するために倉庫一室借りている! 費用、どう捻出しているの!? 書店バイトしてるのはわかってるけど、バイト代で倉庫代賄えるものなの!? もしそれが可能なら、自分もやってみたい!

そんなこと思ってしまうくらい、貴子の行動はオタクにとっての理想形を描いていて、ある意味夢を叶えたオタクですよね。かくありたい。だが、現実には難しい。だからこその、貴子の生き方、そして綾との関係の深め方には、あたかも美しい夢がそのままかたちを成したかのような魅惑があったのだと思うのです。

自分の理想的な空間。わかりあえる、感性の近い友人。自分の大切にしている価値を認めてくれる誰かがいて、時にともに語りあい、時に同じ場所でそれぞれ違う本を手に自分の時間を過ごしている。この距離感の心地よさが伝わる。それだけに、こうした関係を望ましく思う人にとっては、これだ! と膝を打つようなわかっている感がある漫画だと思ったのでした。

そして本がつなぐ関係、本に囲まれたふたりの隠れ家。それが綾に与えたもの。そして綾がこの場に求めたもの。それらが総括された終盤とそこからはじまる彼女の変化。気づき、そして現状を乗り越えていく活力をこの場所から、貴子との関係から得ていたのかも知れませんね。

憂鬱で重苦しい現実から逃避できる場所があってもいい。時に現実に向きあわざるを得ないにしても、疲れたときにはふたたび戻れる場所があるって素晴しい。そうした心の保養地を互いに持つふたりの関係。それはやはり理想形だと、うなづかずにはおられませんでした。

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