2021年5月24日月曜日

『まんがタイムきららフォワード』2021年7月号

 『まんがタイムきららフォワード』2021年7月号、発売されました。表紙は『アネモネは熱を帯びる』。コミックス発売直前ということもありましょう。見事表紙と巻頭カラーを飾りまして、しかし見映えするいいイラストであると思います。淡く明るい髪色の凪紗と黒髪の茉白。互い違いの巴に顔を寄せ合うその構図、上側に髪の黒い茉白が位置することで、その重みがしっかりと凪紗を押さえて安定を生み出しているんですね。その表情の違いもまた、笑顔を見せる茉白と戸惑い浮かべる凪紗、対照的で、受け身と見える凪紗に、身を凪紗に向けて積極的な働き掛け感じさせる茉白と、この上から下へと、あるいは奥から手前へ向かう力の流れが生じているところ。その力はおのずと読者へと向かうわけでしょう? 実にいいと思ったんですね。

今月は新規ゲストが5本です。

『お召し遊ばせ』

うおお、ヤベえお姉さんの話だー。服が好き、でも幼女のほうがもっと好きです。なんてことゆうてるお姉さん。女の子じゃなくて幼女と表現する、その語彙があかんよな! この人にとって服屋はある意味天職で、お客として訪れるお子さんの好みを聞き出して、その子に似合う服をおすすめしてと大活躍。後輩からの信頼も厚い! でも、これ、本心、正体を知られたらあかんやつや。

このあぶないお姉さんのもとに現れた女の子。ドストライクな幼女であるその子の望み、自分のための服を作ってほしいという、その希望を叶えようとするのだけど、本来この店ではこういうことはやっていない。だから秘密。秘密でその子を事務室に通して、秘密で服を作る、その背徳的な愉しみ! でも、これがただこの人からの一方通行ではないということがわかる終盤、その子とお姉さんの知らずして確立するにいたった共犯関係。それがある意味、お姉さんのヤバさを免責して、お似合い? そんな関係にしていたと思うのですね。

いやしかし、お姉さんフルスロットルすぎる。逮捕されかねん、そんなヤバさにしびれます。

『大家ちゃんとお姉さん』

これもおねロリ!? 大家さんは和装の似合う女の子。家族をはやく亡くし、ひとりでアパートを切り盛りしている。そんな子が、餃子を買う金もない店子のお姉さんを誘って、一緒に餃子を食べましょう。かくして皮から手作りする、そんなちょっとした特別感ある食事の情景が描かれて、あの餃子をつくるところとか、実際とても魅力的。ええ、誰かと一緒に作る、そして食べるご飯の楽しみ。丁寧な筆致で描かれる、その様子はふたりの心情もよく表現して、たいへんよかったと思います。

しかし、こういう漫画を読むと、このレシピを参考に自分でも作ってみたいとか思っちゃいますよね。それだけおいしそうに描かれていたから、またそしてふたりの食事の様子、感じいるところあったからだと思うのですね。

餃子というチョイスもよかったのかも知れない。ありきたりで馴染みがあって、でも皮から作るとなるとちょっとしたイベント感も出てくる。そんな普通と特別の合間に興味、気持ちが引き込まれるように感じたのでした。

『君と僕との美味しい時間』

好きになにかを買って食べる、そんなことすらも禁止されている箱入りのお嬢様。そんな彼女のちょっとした冒険でありますね。主人公のバイトするたこ焼き屋に、姿を偽って現れた。皆も食べているたこ焼きを食べてみたいという一心で。誰かにバレないようにと、慣れない下手な変装をした彼女の身の上を聞いて、現金を持たない彼女のために自分のまかない、取り分からたこ焼きを食べさせる主人公。ええ、これは少女の冒険とボーイ・ミーツ・ガール。一緒に食事をとる、その触れ合いをきっかけに孤独から脱却していく様が描かれるのです。

知らない世界に踏み出す、その勇気というか思い切り。これ、この子にとっては冒険であり、そして自分を取り巻く窮屈な世界への叛逆ですよね。御仕着せの価値観に甘んじるのではなく、自分独自の価値観を模索すべく行動をはじめた。そんな時期ゆえのまぶしさとあやうさが同居しているように感じます。

『まどろみのアトリエ』

いい話だった。

高校3年のあの日。働きたくないという同級生の女の子から、画家になれ、ポーズモデルとして私を雇え、そういわれたのがきっかけで? そのまんま画家としてデビューしてしまうっていうの、のっけからいいテンポだったんですが、この元同級生同士が、つきあうでもなく、でもどこか魅かれながら、ふたりだけのアトリエで絵に向きあっていくコメディ。だらけてるだけに見える女の子が、実は絵に打ち込む主人公のことずっと好きだったとかね、基本主体性持って動かないのに、主人公が落ち込んだりしたらはげましたり、ちょっとした言葉の綾でどぎまぎさせたり、そうしたふんわりとくすぐってくるところ、とてもよかったと思います。

基本、小エピソードの積み重ねです。見開き2ページで構成されるエピソードは、コマ割り漫画だけど最近主流のゆるくストーリー作っていく四コマのような感触あって、読みやすさ、話の広げていき方、絵の見せ方、それらがマッチして魅力的にふたりのキャラクターを描き出していったと思うのです。

だからこそでしょう。あのラストに繋がるエピソード。落ち込む主人公のこと、くすぐるでもなく、ごまかすでもなく、心の奥底から心配して、自分のことよりも主人公の気持ちを大切にしようとしてくれた、あの瞬間、あの表情には、完全に心持っていかれてしまいました。素晴しかったです。

ゆるくて、ふんわりと軽いコメディ。けれど、そこに一瞬踏み込みをともにウェイトをかけてきた。その山場を作り出すために流れを作って、ここぞというタイミングに調整してくるうまさがあったと思います。

『メイドファイターくるみ』

思い切りのいい漫画ですよ。数日前に雇われたメイドのくるみは、なにをやらせても駄目。掃除が駄目、炊事も駄目。粗忽でなにごとにおいても雑。なぜこんなメイドが雇われたのか。

早々に疑問は解消するのですけど、なるほど、屋敷を襲撃者から守るため! 戦闘メイドだというのですね。で、その襲撃者というのが一工夫ですね。まさかの婚約者。屋敷を破壊して、住む場所を奪った上で、自分の屋敷に住まわせようというんだ。なんとまあ、ほんとに婚約者なのかい? 普通に考えて、ならず者の思考ですよ。この世界には法も秩序もないというんでしょうか。

でもこの思い切りがいいのは悪くなかったですよ。荒唐無稽っちゃあ荒唐無稽。無茶なんですけど、無茶だからこそのおかしさ、面白さがあったと思います。その無茶さでもって、最後の最後、RPGとガトリング対決に入る前に、もういくつか無茶なのぶち込んできてくれてもよかったと思いました。

この漫画で一番気にいってるの、婚約者の野ばらに付き従う家政婦の秋葉。見た目は常識的に見えるこの人が結構お嬢様を焚きつけてるのね。ほんと、法も秩序もない。そこに味がありました。

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