『まんがタイムオリジナル』2020年12月号、発売されました。表紙は『ラディカル・ホスピタル』。これは芸術の秋ですか? 同時に食欲も満たしているようにも思うのですが、ほんのり柔らかタッチで描かれたふくよかモナ・リザ山下ナースでありますよ。でも本家モナ・リザと違って、手には焼き芋、口元に芋がついてましてよ? お嬢さん。『らいか・デイズ』らいかは画板を首にさげて、構図をどうするか試行錯誤中。『小森さんは断れない!』しゅりはというと彫刻で大谷の裸像を掘っている。おお、際どい! モーレツ! でありますよ。
今月は新作ゲストが1本です。
『オネェの恋のはじめかた』
友人男子から、好きな人ができたわ! と相談されて、相手は男と思うってのもなかなかの理解者なんじゃないでしょうか。けれど実際には女の子で、あら、本当に可愛い。短い髪に大きな目。少年っぽさ感じさせるけれど、女子らしい表情も見せる、ちょっと中性的な雰囲気ある子。その子に、トキメキを覚えたというわけですか。わかる。わかります。
その彼、胡桃沢時宗。タイトルにもあるけどオネェなのか。格好こそは学ランきっちり着て男子そのものなんだけど、しゃべりかたとかにその傾向が見てとれる。で、実際に男子も好きでいらっしゃるのね? うん、時代だ。こういうあり方が普通になってる社会というのはいいものだな。なんてこと思っていたら、時宗、男子に告白して冷たくフラれた経験があるのか。しかもそれで、時宗のこと白眼視する連中も多いのか。すっかり心のキズになっちゃってるじゃん。時宗相手に恋愛とその対象について軽口たたける翔人、こいつは時宗にとって本当によい友人なのかもな。わりとズケズケいってるように見えた翔人だけど、それができるだけの信頼を相互に築けているのか。
時宗の恋した女の子、八神桜子。この子が時宗にとっての翔人のように、信頼を築いていけそうな子だというの、偏見とかなしにまっすぐに見てくれる、そうした子であるというのがわかる終盤。ああ、この子となら、時宗は心のキズに囚われることなく、自分の気持ちを自由にしてあげられるんじゃないかなって思われて、ええ、いいじゃないかって。
最初に好きになったのは顔。それから気さくさと飾らなずまっすぐな気持ち。知るほどに恋の深まる時宗のその様子。見ていて応援したくなる恋でありますね。
『ネコがOLに見えて困ります』
動物が人の姿に見えてしまうミコト。なので身近な動物たち、自分の飼ってる猫でさえも、実際の姿はわからずにいて……、という彼にとっての朗報ですよ。友達から教えてもらったスマートフォンアプリ。動物の写真を加工してイラストにしてくれるっていうんです。おかげでミコトも、猫のベンジャミンの本当の姿を知ることができた。電線にとまるモヒカンたちも、本来のスズメの姿に戻った。お爺ちゃんと一緒に散歩する、ベレー帽にポンチョの可愛い子が実は柴犬? っていうのもわかった。
ええ、猫のOLさんの本来の姿をついにミコトも知ることができるようになったっていうんですよ。
ああ、ITというのは素晴しいものだなあ。問題を見事に解決してくれる!
でも今回の騒動は、スマートフォンごしに猫の自分を愛でるんじゃなくて、すぐそこにいる自分を見てほしい。一緒に遊んでほしい。そんなOLさんの気持ちがばんばん出てきたところに見どころありでした。ムスーってして、スマートフォン叩き落としたかと思ったら、抗議の表情で猫パンチ。いやもう、OLさんのミコトが大好きって気持ちが、スマートフォンじゃなくて自分をかまってという気持ちがほんとうによく見えたのがよかったです。
でもって、兄貴さんが撮影してくれた写真です。ああ、イラストタッチにしたら、かわいいネコちゃんとのほのぼのコミュニケーションですね。というか、劇画タッチにされてるミコトがものすごいんだけど……。なんか、スタンドとか呼び出しそうよ? ともあれ、自分たちの関係を客観視できたミコト。まだ照れがあるけど、それもまたチャーミングでよかったです。
『となりのフィギュア原型師』
フィギュア、造形の展示会。いつになく気合いのはいっている半藤とはぐちゃん。それぞれに気合いの向かう先が違うのが面白いですよ。そうか、半藤は心が折れないよう体を仕上げてくるのか……。それ、効く?
会場での様子も面白かったですよ。やけに怪しい原型師どもがぞろぞろ出てきて、いやいや、いやいや、さすがにこんなの現実はいないでしょう! いないですよね? でもって、展示されている原型への姿勢? 関わり方見れば隠れ原型師がわかるっていうの、落ちが、落ちが酷くてそして切なかった……。
今回のエピソードは、おこめ代表の造形と半藤のデジタル造形、その共作の結果、お披露目の様子描いたものだったんですね。いい仕事にいい評価が返ってくる。倉田のいい表情。まんざらでもない代表。そして折れた心を回復させた半藤。ああ、仕事を仕上げる、そしてレベルアップしていく、その瞬間を見たように思いました。なんだろう、こういう報われた瞬間見せられると心が豊かになる気がします。
『おしかけツインテール』
花梨がMMORPGはじめるんですってよ。なんでまた? そう思ったら、俊郎の策略に見事にハメられてしまったんか。無料とか有効期限とかチラつかされるとモッタイナイ意識が勝ってしまう。というか、自分でも乗せられてしまったってわかってるんですね。あのちょっとしおれてる花梨が可愛かったです。
しかし、このゲーム面白いな。ベテランプレイヤーによるニュービー狩りどころか、有志による新人歓待が横行しとるのか。まあなあ、花梨のキャラクター、カリーナは可愛いから、それでチヤホヤしちゃうやつが出るのもまあわかるかな、とか思ってたら、これ、違うな、可愛い女子キャラとかじゃなく、新人とみると見境なしに過剰サポートしにいくんだ! すまぬ……。すまぬ。君たちを誤解してしまっていた……。
過剰な歓待を受けて、ちょっとスレてしまってる花梨の葛藤が面白かった。と同時に、花梨を助けようと頑張る俊郎の後ろめたさからくる不信と迷い。めちゃくちゃ面白い。なるほどなあ、これ、俊郎、花梨に擬態した魔物に騙されてしまっとるのか。確かに落ちてきてるものが違う。花梨には大石、俊郎が騙されたニセ花梨には鉄球。これ、最初よくわからなくて混乱しながら読んでたんですけど、だんだんわかってきて、あー、すれ違いだー! って気づくと本当に面白い。というかヤバい。プレイヤー間の不和を引き起こしかねない要素があるMMOって怖いよ! ソーシャルエンジニアリング、ソーシャルハッキング系の罠じゃないっすか。
すっかり罠にハマってしまってどんどん墓穴を掘っていく俊郎。冷たく見下ろす花梨さん。うん、最高だったと思う。花梨さんのよさ、怜悧で鋭利な美しさ、際立ってましたね! ええ、俊郎さん、グッジョブですよ。
- 『まんがタイムオリジナル』第39巻第12号(2020年12月号)
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