単行本で印象深い作家というと辻灯子が思い出されます。現在も、オリジナルで『スズちゃんでしょ!』、ホームで『おんなのおしろ』を連載していて、大ヒット! とか、アニメ化! とか、華々しいニュースはついぞ聞かないのだけど、この息の長さ、地道にコツコツと毎月の連載を重ね、コンスタントに単行本を出していくその姿勢、スタイルは、一口にいって驚異的。同じくらい長く描いている人、コンスタントに巻を重ねている人もいるわけですが、読者からすれば当たり前みたいに続いているように見えるその活動にどれほどの労力がはらわれているのだろう。本当にすさまじいことだと思うのです。
さて、単行本で思い出されるのが辻灯子というの、なんでかといいますと、ちょっと珍しいなって感じることが、この人の単行本まわりであったからなんですね。ただこれは、自分が気づいていないだけで、わりとあることなのかも知れない。いや、だって、普通にしてたらわからないままになることでしたからね。
『ただいま勤務中』の最終巻、3巻が出たときのことです。買ってきて、楽しみにして読んで、ああ面白かったと閉じた時に、あれ? そういえばあの話が収録されなかったなと気がついたのでした。
四コマ漫画の単行本は、雑誌に掲載されたもの全部が収録されるとは限りません。いや、四コマに固有の話じゃないか。単行本未収録の原稿が単行本一冊のページ数に比べて多い場合、必要に応じて削られるんですね。でも大抵は気づかない。連載を追っていても、掲載されたその全部を覚えていられるわけじゃないですからね。でも、削られたネタがあまりに印象的だった時に気づくんです。あれが入ってないって。すなわち『ただいま勤務中』3巻で落とされたのが、たまたま私の気にいっていたものだったというわけです。
これだけなら、なにも珍しいことではなかった。ですが、匿名掲示板でですね、あの話好きだったのに収録されてなかったといったら、収録されてるよと返事が返ってきて、え? マジで? どこどこ? と思って確認したら、なんと初版初刷と第2刷で収録内容に異同があることが判明しました。初刷との違いについてなんらかの註釈でもあるのかと思ったらないという。つまり、こうして情報交換できなければ、第2刷での変更に気づかないまま終わった可能性が高かった。
結局、書店で第2刷であることを確認して、もう1冊買いました。でもこれ、異同のあること知らなかったら、2冊所有する意味、わからないですよね。
なぜ第2刷で内容を変えたのか、それは不明です。初刷を印刷、出版した後で、やっぱりこのネタまずかったよね、差し替えないといけないとなったのか、あるいは作者がこちらがいいとでもいったのか。このへんは、読者の側からはうかがい知ることのできない領域で、ただ違いがあった、私はそれを知るにすぎません。
辻灯子の単行本で印象的だったできごと、もうひとつありました。『べたーふれんず』ですね。
これはナチュラルに連載されていた漫画で、ナチュラルが終了した時に連載も終わり、単行本化されました。で、これが予想していた以上に売れたのか、終わったはずの漫画が復活、再度連載されるにいたったんですね。それが『Moreべたーふれんず』。もちろんこれも単行本になっています。
『べたーふれんず』の復活連載を見て、当時、辻灯子は雑誌のアンケートと単行本の売れ行きが乖離していたりするのだろうか、単行本だけで追っている読者が多かったりするのかも知れないなどと、予想しあったりしたことを思い出します。そして、この単行本が売れるという実績が、タイトルを違えながらも絶えることなく連載が続き、そのことごとくが単行本になるという状況を支えているのだろうとうかがわせるのでした。
- 辻灯子『べたーふれんず』(まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2005年。
- 辻灯子『Moreべたーふれんず』(まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2006年。
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