2018年10月13日土曜日

思い出し語り: 佐藤ゆうこ

 もう、すっかり過去の人になってしまったのかなあ。思い出し語りとはいいますが、一応は軽くWikipediaなど参照して既作の掲載誌、連載期間などをチェック、また刊行された単行本についてなど調べるんですが、なんと個別ページがなかったんですね。これは佐藤ゆうこの人気や知名度の問題ではなく、この人の活動期間とWikipediaに四コマ漫画家の記事が盛んに書かれるようになる時期がずれているためでしょう。ということは、2000年代前半までの四コマ漫画についての情報、webにはほとんどまとまってないってことじゃないか。誰のどの漫画がどんな風に人気だったか、振り返ることも難しい。これはちょっと想像以上に悪い状況です。

佐藤ゆうこ、代表作はもう間違いなく『ユーアーマイサン』でしょう。自分の子供、たけちゃんを主人公にした日常のスケッチで、たけちゃんのこましゃくれた物言いや、子供らしい突拍子もない言動が、時におかしく、時に愛らしく表現されていて、大人気でした。どのくらい人気だったか、具体的に表現するのは難しいけれど、単行本の刊行ペースを見ても、複数誌で掲載されていたことがわかるし、また売れていたからこそこれだけのペースで出版されていたことがうかがえる。けれど、4巻しかなかったっけ? 正直、もっと出てると思ってたんだけどなあ。記憶というのはあいまいでいいかげんなものです。

まんがシークに多少の情報が載っていました。『ユーアーマイサン』以外の連載についても記載されていて、そう、『会議室でおべんとう』、これが好きだった。でも、たけちゃんの人気が出たからそちらに注力するためか、あるいは単にその連載がふるわなかったからなのか、はやい段階で終了してしまっています。

これ、オフィスものですね。主人公のOLが先輩に憧れたり、それから個性的? ちょっと変てこな発想、行動する同僚がいたりして、ほのぼのとしたラブコメと、時にまじるシュール、その雰囲気が好きでした。忘れられないネタがあるんです。その変わった同僚がデスクにマヨネーズっぽいチューブを置いてて、上司に、なぜマヨネーズなんて置いてるんだ! ってしかられるんだけど、ご安心くださいラードですっていってそのまま仕事続けるという、それだけの四コマ。文字にすると、なんも面白くないよね。でも、その雰囲気? ちょっとしたおかしみがくすぐって、記憶にしっかり残ってしまった。これにしても、『あのコはセンセイ』にしても、この人には気の効いて面白い四コマ、多かったと思うんですよね。

『さとゆうの歌舞伎観劇大作戦』、この掲載年が記載されていたの、大変にありがたい。というのは、この頃がこの人の人気絶頂期だったから。ちょっと特異なケースといっていいんだと思う。どういう経緯なのかわからないけれど、美人四コマ漫画家といって写真週刊誌で紹介されたのがこの時期。また、あきらかに漫画の質が変化したのがこの時期でした。

質の変化というのは、歌舞伎観劇大作戦が顕著なのですが、四コマ漫画ではなく当時流行していたエッセイ漫画、ひらたくいえば西原理恵子的なものに接近したいという気持ちが見え隠れしたというのがひとつ。けれど、残念ながらよい漫画とはいえない出来で、やたらテンションが高い、そのように見せているというよりも、作者自身がハイになっているというのがわかる、そんな漫画であったことを覚えています。

そしてもうひとつの質の変化。明らかに仕事が雑になっていました。これ、後に作者本人がこの当時のことを誌面で詫びています。たけちゃんに人気があったためでしょう、かなりのわがままが許されていたのだと思います。確か観劇にいくからと、未完成の原稿を担当編集者に押し付けて作業させたことを告白して、申し訳なかったと。また、そうした裏事情をなしにしても、一見してわかるレベルで誌面が荒れていた。背景なんかがとりわけ酷く、当時当然読者の間で話題になって、あれはどうしたんだ、どうなってるんだと、いろいろささやかれたものでした。

これまた特異なケースなんですが、作者の身内の方が匿名掲示板に何度かいらっしゃったことがあって、あんまりよいことではないのかも知れないけれど、直接にクレームを受け付けて、伝えておくと、そういうこともありました。ほんと、特異だよなあ。当時、「ホームページ」を作り、そこの掲示板などで交流を持つ作家はすでにありましたが、匿名掲示板で、しかもご家族とという例はなかなか知らない。けど、そんな不思議な交流があったということも、また当時の四コマ漫画をめぐるひとつの情景ではあるのだと思います。あまりに例外的ではありますけどね。

このエッセイが描かれた頃が佐藤ゆうこの絶頂期だったというのは、おそらく間違いないことだと思います。この時期を境に存在感を弱めていくことになったのは、仕事に対する態度がさすがに反感を買ったためなのか、あるいは人気作『ユーアーマイサン』の主人公、たけちゃんが大きくなって、幼ない頃ほどの面白さがなくなってしまったからなのか、描けないことも増えてしまったからなのか。それはわかりません。

ただひとつ思うのは、この後に連載された『おしえて!!おじいちゃん』が悪くなかったこと。素直にいって面白かったこと。また、これ以前の『ユーアーマイサン』以外の漫画も面白かったこと。そして、それらの単行本は、ほぼ刊行されていないこと。

刊行されなかったのは、それだけの理由があるだろうことは、おぼろげながらでもわかります。当時、読者に求められていたのは、とにかく『ユーアーマイサン』で、それ以外のものに割くリソースはなかったのかも知れない。でも、私は、『ユーアーマイサン』以外の漫画も好きでした。もっとはっきりいえば、『ユーアーマイサン』以外の漫画が好きでした。好きだったそれらが単行本として日の目を見ることがなかったこと、それをただただ残念に思っています。

  • 佐藤ゆうこ『ユーアーマイサン』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2001年。
  • 佐藤ゆうこ『ユーアーマイサン』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2002年。
  • 佐藤ゆうこ『ユーアーマイサン』第3巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2003年。
  • 佐藤ゆうこ『ユーアーマイサン』第4巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2004年。
  • 佐藤ゆうこ『メイドのお仕事』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2003年。

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