『べたーふれんず』がついに出版されました。これは『まんがタイムナチュラル』という、実験的かつ短命な隔月誌に連載されていた漫画でして、ですが私、最初のほうは読んでなかったんですね。姉妹誌である『まんがタイムポップ』を買ってましてね、ナチュラルには手を出していなかったんです。いや『まんがタイム』って系列誌が馬鹿みたいに多くって、全部買ってたらあっという間に部屋が雑誌で埋まります。当時は私にもまだ良識というか自制というかがあったので、全誌は買っていなかったんですね。
けれど、今となってはナチュラルも買っておけばよかったって思います。ナチュラルレターという、作家さんが絵端書書くみたいにして近況報告をするページというのがありましてね、その雰囲気がすごくよかったんです。悔やんでも遅いのですが、あの独特の親密さやしっとりした感じを見過ごしたのは失敗であったと思います。
けど、失敗はそれだけじゃなかったんですね。というのはですね、四コマ漫画というのは連載されてるのが全部単行本になるわけじゃなくて、一冊に満たないような量で終わる場合も間々ありまして、だからナチュラルに連載されていた漫画の大半は、単行本になる気配もなくそのまんまにされているのですね。面白いと思った漫画もやっぱりたくさんあったんです。けれどそれを単行本として手に取ることはできず、四コマ漫画というのはそういうもんなのだと諒解しているつもりではあっても、やはり納得いかないというか、切ないというか、そういう感情は拭えないものなのです。
だから『べたーふれんず』が出版される日がこようとは夢にも思っていませんでした。まずは一冊分の量があったことに驚き、初出一覧でナチュラル刊行期間がが四年もあったというのに驚き、こんな風に私にとってこの漫画は、驚きと意外性のタイトルでした。ですがまずは出版されたことが嬉しい。途中からしかナチュラルを読んでいない私には、これが『べたーふれんず』の全貌を知ることができるはじめての機会であるのですから。
この漫画に関しては、以前『ただいま勤務中』で書いたときにも触れましたが、自由な気風が気持ちいいOL二人組が主人公の漫画でして、でも自由な気風はこの二人だけじゃないですね。連載時には把握しきれていなかった二人のOL、そして姐さんも実にさっぱりとすがすがしくって気持ちいいこと。この人の漫画は、陰鬱さがないのがいいです。空がすかーんと開けているみたいな解放感、吹きつける風のすがすがしさがあります。女性たちの闊達さが、マイペースなこずるさや傍若無人をチャームポイントに変えてしまっていて、ええ、あんな女性になら私も振り回されたいですよ。いや、マジで。
辻灯子の持ち味は、関係性にこそあると思います。自然で素朴に見えて、すごく繊細な人間関係のバランスを描いています。その関係におかしみを盛り込んでくるのですから、きっと並の観察力ではないのでしょう。きっと普通の人なら見過ごすような出来事でも、しっかりと捉えて、それを四コマに表現する。華やかな絵に必要最低限の説明、はまる人にはとことんはまるタイプの漫画であると思います。
そしてだ、『べたーふれんず』最終回は、繊細さにダイナミックが加わった伝説の着ぐるみコント! 私はこれを初めて見たときは、朝の通勤の車内で、笑いが止まりませんでした。何度も何度も読んで、笑いをかみ殺すのに必死でしたね!
どこがどう伝説であるかは、ご自身の目で確かめていただきたい。もう、あの一連のシークエンスは、漫画史に残るといっても過言ではないと思いますよ。
- 辻灯子『べたーふれんず』(まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2005年。
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