夏だから、というわけでもないのですが、つい先日、ずっと気になっていた映画を見たのですよ。『ゆきゆきて、神軍』。第二次大戦をニューギニアにて兵士として経験した奥崎謙三が、心残りとなった疑問を明かそうと元上官や戦友たちを訪ね歩く様を追ったドキュメンタリー。しかしこれが話題になっていたの、戦時のいろいろを浮き彫りにするということもあったわけだけれど、むしろそれ以上に奥崎謙三という人物の強烈さが中心で、いわく狂人、まともでない。元上官を訪ねていって暴力沙汰に及ぶんだぜ? みたいな風にささやかれていたのを仄聞しては、いったいどういうドキュメンタリーなんだ? 気になっていたのです。
Huluにて配信されていたんですね! うお、これは見ておきたい! そう思って、ようやくまとまった時間ができたから、ようし見るぞー、と心待ちにして見た。
しかし、ひとりの人物をつかまえて狂人呼ばわりはちと酷いよな。実際、どういう言動なのか、そう思いながら再生したら、あー、こりゃあヤバいわ。だってさ、この人の自家用車、バリバリの街宣仕様で、なにか主張があるのはわかるけど、「田中角栄を殺す」とか書くの、あかんだろう! およそまともではない。この時点でちょっと引いちゃってるわけですが、でもこの人はこの人なりになにか信念があって、話す内容はアレだけどわからんわけではない。理路はある、そんな感じの人物でした。
この人、戦時中に処刑された人物について、聞き取りをしていたんですよ。なぜ? 彼らが処刑されたのは敵前逃亡のためなのか? その理由を問うていく。
聞き取りを重ねていくうちに、いったいこの人がなにを問題にしているかが徐々に判明していくつくりになっているんですが、当初は処刑にいたった理由に疑義があるのかと思っていた。ところが、どうもそうではないっぽいぞ? 処刑の日時が終戦を知ってから数日後だったのはなぜか。これはただ理由に拘泥しているのではない。奥崎が知りたいのは、なぜ彼らは殺されなければならなかったのか? ではなく、なぜ彼らを殺したのか、その処刑の目的をこそ問うている。
そして、対象となる事件を変えてさらに続けられる聞き取り。これで奥崎の問題意識が明確になるのですが、正直、ここまでこれがあからさまに語られることになるのか! 心底驚かされて、ぞっとする、息を呑む、呆然としながらも語られることをあまさず聞き取ろうと必死の思いでついていって、これはすごいわ、評判高いのもよくわかる。
想像をはるかに超えたものを見せられた、そんな圧倒された感覚ばかりが残りました。
内容には触れません。正直、これでも語りすぎたと思ってる。なにも知らないまま見せられた母が、これはなんという映画かと聞いてきた、それくらいに見るものを引き付ける凄さがある。そんなドキュメンタリー。
圧巻といっていいのだろうか。苛烈といった方がいいのかも知れない。ドキュメンタリーや映画をさほど見ていない自分だからそう思うのかも知れないけれど、これは独立峰の存在感だと思う。機会があれば見てほしい。なるたけ事前情報がない状態で!
そういうのは、自分の覚えた圧倒される感覚、それを共感する人を増やしたいからなんだろうなって思います。ええ、すごかった。ただただすごかったのですよ。
- 原一男,疾走プロダクション『ドキュメント ゆきゆきて、神軍』皓星社;増補版,2018年。
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