一度見てみたいものだ、長くそう思ってきた映画がありました。ネットで話題、ネットで人気のタイトル。やれ鬱映画だトラウマ映画だといわれている映画。ある日、突然自分の娘が破傷風にかかってしまったら……。数日前まであんなに元気だった娘が、日に日に状況を悪化させていく、その様に圧倒させられる一種の恐怖映画。その名は『震える舌』。1980年公開の日本映画です。
一種の恐怖映画というの、どうも公開当時にそういう売り方されていたみたいな話もあるようで、破傷風という、名前こそは知っているけれど、詳しく知っているわけではない病気。そいつに感染するとどんな症状が出て、どんな経過を辿るか。それを、どうだ、これでもか、これでもかと見せつけてくれるんですが、いやもう、映画の中の登場人物、お父ちゃんもお母ちゃんも、どんどん消耗していくのがものすごくって、そして同時に見ているこちらもじわじわと消耗していくというのですね。ええ、これ、単純に怖いというんじゃなくて、こういう状況に立たされてしまった時、いったいどうやって冷静を維持し、苦境を乗り越えればよいのか。いろいろ考えさせられる映画であるんですね。
しかし、考えさせられるのはいいのですが、これ、当時の医療現場って、ほんとにこんな感じだったのかなって思えてきてしまって、いえね、破傷風って感覚の刺激が大敵だっていうんですよ。光が駄目、音も駄目。感覚の刺激が痙攣性の発作を引き起こして、あまりに酷いその痙攣のために脊椎を折って死にいたるケースもあるというんです。うわー、怖い病気だなあ。で、ここまではいいんですが、その破傷風にかかった子の病室ね、なんでそんなセンシティブな患者なのに、普通にお子さんが廊下を行き来したりするような棟に入院させちゃったの? しかも、わりと近くにお子さんたちのいっぱいいる大部屋があったりね、待って? もうちょっと、ほら、こう、隔離病棟みたいなの、あったりしないの? わかんないんですけどさ、もしこれが当時の医療のスタンダードだったのだとしたら、あんまりにまずくない? 途中の遮光カーテンが風でひらひらっていうのも、待って? 窓開けてたの? つうか、あれか。この当時、エアコンがなかったから、夏は熱くて窓閉め切っていられないのか……。
わかんないこといっぱいなんですけど、これが当時の医療の状況だったら、さぞ患者の身内は消耗しただろうな、そう感じさせられて、看護に家族が泊まり込んだりね、今だと無理なんじゃないかな。家族の負担が大きすぎるといいますか、実際、睡眠とらずにいたことで、どんどん精神を消耗させていく。恐怖の妄想に取り憑かれて、もう終わりだって、もう駄目だって、ただでさえよくない状況が、なおさら悪くなっていく。やっぱり人間、ちゃんと寝て、ちゃんと食べないと駄目だなって。精神の均衡を保てず、まともな判断ができなくなってしまうんだなって。そういった教訓も残してくれている映画だと思います。
しかし、この映画、本当に怖いのは、破傷風という病気、かかれば今でもこんななんでしょうか。子供の頃は、泥遊びしてるところで傷作ったりしたら、破傷風が怖いからよく洗いなさいみたいにいわれたの、今でもきっと変わらないと思うのですが、治療の状況とかはどうなんでしょう。今でも、この映画に描かれたのと大きくは違わないのだとしたら、ほんと、冗談じゃないな、怖ろしいなって、ぞっとさせられる。そんな映画であったのですね。主人公家族がそうだったように、いつ自分が当事者になるかわからない、そうしたこと思わせてくれる恐怖があったというのです。
- 三木卓『震える舌』(講談社文芸文庫) 講談社,2010年。
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