2016年9月1日木曜日

はんどすたんど!

 『はんどすたんど!』はゲスト掲載時からすごかったよなあ。画面はよく整理されてすっきりとわかりやすく、キャラクターも可愛くて魅力的。表情豊かによく動いて、それぞれの個性もばっちり際立っている。テーマは器械体操。経験者ひとり、残る3人は未経験者。この4人で部活を作りましょう、というんですが、創部までの顛末、キャラの顔見せ、ゲストの1回でしっかりすませて、それだけでなく、体操面白そう、体操、魅力的に見せてくれそうと予感させる、そんな描写まであって、うわあ、これ1回かぎりなんてあんまりだ! と思ったら、いやあ、よかった、続きましたよ、連載になりましたよ。ほんと、あの時は嬉しかったなあ。

そうそう、今回ゲスト回、つまり第1回ですね、久しぶりに読み返してみたわけですけど、びっくりしました。ななみがですね、わりと普通の子っぽいじゃないですか! いや、初回からいろいろ奇行が目立つ、そんな子ですよ? でも、本編読んでたらわかるんですけど、この子、どんどんすごくなっていきますから。人の領域を逸脱しているというか、その表情も、ばっちり決まって揺ぎのない、そんな堂々としたインパクトに満ちている。でも、ゲスト回は表情に揺らぎがある! うわあ、人間らしい! 普通に笑ってるし、普通に戸惑ってるし、なんというか、我々人類の理解の範疇にいるんですよ。冒頭扉のななみも、なんだ、普通に可愛いよ! 美少女だよ! いや、本編に入っても可愛いんですけどさ、可愛さの質が違うのよ。ほんと、むしろ初回は、ひとり逆立ちしてたゆかの方がよっぽど変わってる、そんな感じで、でも連載になったらななみぶっちぎり。もうたまらん。絵だけでおかしい。そのインパクト! ぜひ体験していただきたく思う次第です。

ああ、ななみって誰かというと、表紙にでっかく出てる、ベリーキュートな子です。

この漫画は器械体操、オリンピック種目にもなってるやつですね、女子体操を描いているんですが、その表現といいましょうか、描いているものの幅広さ、なみなみならぬものがありまして、すごいんですよ。

まず、なにがすごいといってもキャラクターの魅力ですね。見て可愛い、愛らしい。それはきらら系、D☆V系であるからにはある種当然というべき要素ではありますが、この漫画の登場人物は、見た目に可愛い。それがあって、動いて可愛い、しゃべって可愛いときているんですね。不思議さん、まじめさん、不器用さん、ネガティブさん。それぞれが関係しあう — 、話して、からかって、からかわれて、はげまして、はげまされて、がんばって、応援して、といったその時々に見える表情、人柄、そういったものがとてつもなく魅力的。愛らしい、すごく心に触れてくる。そうそうわかるわかるって共感したりね、あるいはちょっと大げさに描かれることで、おかしみ引き出してきたりね、そうした見せ方のうまさ、実に確かなのであります。

ついで、おかしみ、これが素晴しい。キャラクターのやりとりに引き出されるおかしみがある、これはさっきもいいましたね。ちょっとした動作、ふるまいにおかしみがあり、会話やなにかに見えるおかしみがあり、ほのぼのと笑えたり、もう耐えきれず笑ってしまったり、何度見てもそのおかしみにやられてしまう、むしろ見るごとにおかしくなる、そんな表現があったり。ええ、これはすごい。やりとり、言動、せりふで笑わせてきます。その挙動、絵に表現されるもので笑わせてきます。だって、ななみに顕著なんですけど、見るだけでおかしいんだもの。これ、ほんと、すごいよ。いきいきと躍動するおかしさがある。おかしさが、紙面から飛び出してくる、こちらに飛び込んでくるんですよ。ほんと、これ、一度体験していただきたい。見ればわかる、一目瞭然のおかしさというのがあるって、きっとわかってもらえるのではないかと思います。

そして、体操についての描写。これが実によいのです。ゲスト回でも、ゆかが逆立ちしたり、それからトンボを切ったりしていたんですが、これ、四コマの小さなコマ、その狭さを感じさせることなく、しっかり動きを表現して見せてくれていました。それは本編に入ればなおのことで、あの小さなコマに全身入れて、器具まで入れて、その動き、表情が表現されて、素晴しい。

こうした描写力があるからこそなのだと思います。基本笑いが主体の四コマ漫画でありながらも、体操というものがおざなりにされていないと感じられるのは。ひとつひとつの動きに、その子の個性や、また課題があると、しっかり見て、受け取って、納得することができるんです。うまい演技、きれいな所作も、ばっちりそのように見せてくれるから、おぼつかない演技、不安気な様も際立つ。そして、そのおぼつかなさや弱点が、またその演技者、彼女らひとりひとりの個性を下支えするから、体操というメインのテーマからも、キャラクターがいきいきと立ち上がってくる。

キャラクターが主である、それと同時に、体操というテーマも主である。互いに互いを支えて、不可分にあると実感させられる読後感がある漫画です。読んで面白く、彼女らの和気あいあいとした様はほのぼのと楽しくさせてくれる。そして、初心者ながらも体操に打ち込んで、弱点を克服し伸びていく、その瑞々しくまぶしい瞬間瞬間よ! ああ、これはすごくよい漫画だ。伸びゆく彼女らの、その時間に立ち合っている。スポーツものといえばいいか、あるいは青春のそれであるのか、そうした伸びゆく人たちの美しさが確かに感じられる、そんな漫画でもあるのですから、素晴しいというのです。

  • 有馬『はんどすたんど!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2016年。
  • 以下続刊

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