2025年10月23日木曜日

『まんがタイムきららフォワード』2025年12月号

 『まんがタイムきららフォワード』2025年12月号、発売されました。表紙は『明るいミライ』。なんだか無理して!? 笑顔を作っているミライが、こちらに向けてピースサイン。制服姿、ビルにタワーが並び立つ未来の都市を背景に、AIちゃんと一緒に記念撮影といった風でありますよ。空にはドローン、広告飛行船。地上以外も人々の生活空間になっている、そんな先進都市がこの子たちの暮らす場所であるのですね。しかしミライはなぜこんなにもがんばって笑顔を? そうしたところも、またこの子のぽさとも思えるんですね。

今月は新規ゲストが4本です。

『スポットライトが落ちるまで』

かわいい絵柄で、また一癖ある漫画が出てきましたね! 演劇が大好きなふたりの女の子、美百合と真智の思いの交錯する小編であります。幼なじみのふたりは、子供のころからの約束、演劇に魅せられ、一緒に舞台役者になろうというそれを大切にしている。約束ゆえか、いやそれよりも演劇にいまだ魅せられているからか、演劇部にてがんばるふたりの姿。しかし残酷にも、爛漫に笑顔をたやさぬ美百合はまたも主役に選ばれて、対し真智はというとぱっとしない役にとどまる。

この状況においても、ふたりはいつも仲よく、ライバルとして競いあって、そしていつかは真智も美百合に並び立つ日がくるのでしょうか。

みたいな話かと思っていました。でも違いました。

あまりに報われぬ日の続くからか、演劇に対する熱を失っていく真智の姿。めんどくさいと思ってしまった自分にショックを受ける真智。さらにいえば美百合に向ける感情も、いつしか歪んだものになっていて、敵視? 嫉妬? あるいは諦め? 舞台役者への夢をあっけらかんと冗談のようにいってのけた美百合に対し、言葉にならない思いを抱いた真智の屈折。演劇が飽きたというのは本当? 舞台役者の夢、今でもしっかりと胸のうちにある?

美百合に憧れを抱いては、その憧れたなにかを簡単に手放してしまう美百合に傷ついてきた真智の、今こうして美百合がすでに舞台役者という夢を手放してしまっていたと知らされて抱いた思いやいかなるものか。真っ暗になったという友人に向ける感情や。

屈折し交錯する思いの、いわば真智の一人芝居。いかなる感情をや読者から引き出さんというのでしょう。

『パーティ!勇者パーティ!』

異世界に転生した千年坂りも。勇者として闇のドラゴンを討伐してくれと、その世界の神からお願いされるのですが、特にこれといった得意もないのにどうしたものか。

用意してくれたという、いい感じの勇者パーティも、さしてなにかできるわけでもないカニや、パンをおいしそうに食べる人。回復魔法が使えるというも、戦力にはならなさそうなケンタウロスに、そもそも意思やなにかがあるとも思えない岩。素直にがっかりパーティといっていいですか?

近づいてきた最弱の魔物、スライムにもまるでかないそうにない。散り散りになって逃げ出してしまうのだけど、このスライムも勇者パーティの一員だったんか!

なんともいえない脱力感。この作者の持ち味よく出ていたと思います。

続く、散り散りからの合流編も、とりわけなにかあるわけでもない脱力感がおかしくて、とりわけ岩。なんといっても岩。なんで神様は、この岩をパーティに加えようと思ったのだろう。謎また謎のパーティメンバーでありました。

『食べ過ぎです、お嬢様!』

がんばった自分へのご褒美にパフェを食べることを楽しみにしているお嬢様、美知子。体育で走った、掃除当番がんばった、朝三度寝しなかった。ちょっとしたことを口実に、昨日も今日もパフェを食べる毎日なのですね。

お嬢様がこうなったのも、すべて私のせい。父に認められず悲しい思いをしていた幼少期の美知子に、がんばるために小さな目印を作ればいいんですよと、ご褒美のパフェを食べさせた。それがために、お嬢様は毎日毎日パフェを食べるようになってしまった! お世話係の吉川、痛恨の悔いだというのです。

パフェを禁じても、あの手この手でパフェを口にするお嬢様。自身の無力を思い知り、お世話係を降りた吉川。これで心置きなくパフェを食べられるようになったお嬢様。けれどひとりで食べるパフェは味気なく……。

パフェは自分のがんばりへのご褒美だったはずなのに、いつしかパフェを食べるための口実探しをしていた。間違ってしまっていたと反省したお嬢様と吉川の、素直な仲直りが心にやわらかに触れてくる。優しいタッチが心地良いと思える小編でありました。お嬢様の素直さもまた愛らしく、罪のないと感じさせる物語もまたよかったです。

『加賀美さんと、夕暮れと。』

学内で怖れられている加賀美さん。どこか威圧感ある風貌に、ささやかれる悪い噂。我らがヒロイン、麦も気をつけなよといわれていて、加賀美のことを遠巻きにしていたひとりであったのですね。

でも、ある日、麦は見てしまった。公園で赤ちゃんを抱いた加賀美のことを。加賀美の子供? この歳で赤ちゃんなんて大変なんじゃ!? いろいろ思う麦であります。赤ちゃんのために夜遅くまで働いている? 悪い噂も、赤ちゃんを守るためだったのでは? 想像ばかりたくましく、誤解に誤解を重ねた麦の、加賀美と触れあって知るその人となりは、これまでの先入観とも、また今さっきまでの想像ともまるで違っていて、ああ、こうして麦ははじめて加賀美という人に向きあうにいたったのですね。

この赤ちゃんも、姉の子、加賀美の子ではありませんでした。闇の組織なんかもありませんでした。すっかり加賀美に笑われて、けれどこうして加賀美がほがらかに笑う人だと知ることができた。勘違いして遠巻きにしていた。そんな自分が今はこんなにも加賀美のことを知りたいと思っている。その気持ちの変化。触れて知って、そして変わる。その気持ちの様子が素朴で愛らしいお話でした。

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