2015年11月1日日曜日

そこテストにでます!

 あれ? この漫画、メインヒロインは国実かえでだと思ってたんだけど、もしかして英椛? いや、もみじも可愛いんだけどさ、主役である数馬柊の憧れる女の子、国実かえでこそがメインヒロインで、冒頭こそは数馬との接点の弱さから出番も少ないものの、きっと最終的には、様々なコンプレックス、弱さを克服した数馬が、精神的にかえでに並び立ち、その恋を勝ち取るのだー! と思ってたんだけど、1巻表紙を見て、その気持ちが急速に揺らぎはじめている次第です。いえね、私、この作者のファンでありまして、これまでも、いろいろその著作を読んできているわけですが、ま、まさかそんな展開に!? そんなラストになるのー!? みたいに驚かされることしばしばで、ああ、もしかしたらこの漫画も同様に、最後には、あっ! と思わされるのかも知れません。ええ、私、もう覚悟を決めました。

カバー下の登場人物一覧。これ、いろいろとわかることありましたよ。まず、登場人物の姓が学校の教科に由来してる。社会、国語、数学、英語、理科、音楽。ああ、音楽があるのは嬉しいなあ。そして思ったんですが、あれ、椎夏ってメイン寄りのヒロインってことでいいのかな。最新話だと、数馬のこと、なんたらかんたらっておっしゃってましたけど、あれはもうただ単純にもみじのことけしかける、そうした役割を果たそうとしているのかと思ってたんですが、いやはや、はてさて、どうなりますことやら。

先生を入れたら6人のヒロイン。いや絞られて4人、さらに絞って3人、本命でふたりのうちのどちらか、になるとは思うんですけど、それぞれが違う学校に在籍しているんですね。なので、学生の恋愛ものでありながら、基本舞台は塾に絞られる。それ以外で会うとしたら、約束して待ち合わせするとか、あるいは偶然に出会うとか、そして偶然を装って出会うとか……。こうしたシチュエーション、舞台設定も、彼、彼女らの思惑、あるいは行動を複雑なものとするのではないかな、なんて思っています。だって、メインヒロインと思しきかえでにいたっては、その塾に通っとらんのです。普通にしとったら会う機会がないんです。ほんとだったら、数馬、同じ学校に通う腹積もりだったのになあ。ええ、この冒頭においてすでに、思惑とその挫折があるってわけです。

この漫画がはじまった時、おや、今までのものと随分違うスタートだぞ、なんて思ったんですね。例えば『HR — ほーむ・るーむ』。この漫画は、女の子三人の学校での生活のもろもろの面白さ、それを描こうとしてスタートしたんじゃないかな。ちょっとね、知略に長けた子がいたりしてね、その能力の高さ、確かさが第1回目にばっちり描かれたの見てね、うわ、これ、なんかすごい! すっかり引き込まれたの覚えていますよ。けれど、おそらくは中盤から終盤にかけての恋の気持ちのすれ違い。あそこまで思いの深まり、からまる様を描こうとは予定されてなかったんじゃないかなあ。なんて思ったことも覚えています。そして『少女素数』。こちらは双子の女の子が主人公で、彼女らのかわいいを描きます、みたいなことが第1巻にて語られて、私もすっかりその気でいた、いや、ちょっと嘘、きっといずれか彼女らの気持ちの深く掘り下げ描かれる時がくるんじゃないだろうかなあ、なんて思っていたのですが、はたしてそれは実際のこととなって、いやあ、すみれさんね、彼女の心の揺れ動き、それはもうたいしたものでありました。

『そこテストにでます!』では、冒頭から主人公の挫折、恋のつまづき、そして屈折した気持ちなんてものがとんとんとんと提示されて、そこから一種、女の子に囲まれる魅惑の状況、クラスの男子にいわせればリア充シチュエーション、しいな曰くハーレムに突き進んでいくことになるわけですが、数馬自身は自分のことをモテ要素ゼロだと思っている。いや、思っていた。それがこんなことになったものだから、心底困惑していて、それが事態をよりややこしいものにしているのですが、いやね、だって、もし彼が自信満々で、オレ様モテ男! みたいなやつだったら、もう話は終わってしまっててもおかしくない。けど、数馬はそうじゃない。気持ちは内に向かう。陰々滅々として鬱屈したものを抱えている。それゆえに素直に受け取ればいいものを拒んでしまう、拒絶してしまう。ああ、お前、めんどくさいやつだなあ! 自分もそうだったよ! ああうもう! ええいああ!

この漫画の登場人物は、いや、長月みそかという人の描き出そうという人物といった方がいいのかも知れません。誰もが、ひとりひとり、その裡にその人の気持ちをしっかと抱えていて、それゆえにただ役割りを演じるだけのものとはなり得ない。自分の気持ちに揺れて、ときには持てあまし、翻弄される。そして我々は、おそらくは作者自身が、そうした彼、彼女らの心の裡を覗き込まずにはおられない。これまでが、そうだったように。ええ、そのいずれ覗き込み、深く深く分け入ることになりますよということが、冒頭から、のっけから、これほど明確に提示されたことに、その覚悟というかを感じとったのでありました。ゆえに私も覚悟を決めたわけです。

  • 長月みそか『そこテストにでます!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2015年。
  • 以下続刊

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