2021年7月21日水曜日

『まんがタイムきららフォワード』2021年9月号

 『まんがタイムきららフォワード』2021年9月号、発売されました。表紙は『追風のジン』からヒロインのココロが、新連載開始の告知とともに堂々登場です。明るく伸びやか、元気いっぱいのその笑顔に、ついつい釣り込まれて嬉しくなってしまう、そんな魅力のあるキャラクターでありますね。勢いよく掲げられた右手は誌面から飛び出さんばかりに溌剌と。その左手には、これ、天むすか! あんまりに大きいからぬいぐるみかなんかかと思ったよ! と、こうしたところにこの子の健啖家としての側面も見えてきて、なるほど実にチャーミング。興味をかきたててくれますね。

今月は新連載が1本、新規ゲストが2本です。

『追風のジン』

牛木義隆の新連載。『夢喰いメリー』の次ははたしてどういうのでいくのだろう。情報いれずに待ってたら、なんと、忍者もの!

物語は冒頭からクライマックス!? いや、ここで重要な過去のピースを読者に提示しておくことで、続く本編での展開、過去の英雄に対する風説が誤っているということに読者が気づけるようになっている。しかしなぜそんな誤解が? いやあるいはこの悪党たちが自分たちに都合のいいよう、彼の行動を捻じ曲げて流布しているってことなのか?

このわからないこといっぱいの状況。けれどわからない中にこれという物語の筋道がぴしっと通してあるから、決して迷子になるようなことはない。開示されていく情報と、うずうずと動き始める物語、その両者がともに手を取り合うかのようにバランスよく塩梅されているから、手探りするように読み進めていたはずが、気づけばすっかり引き込まれて、軽快、痛快、活劇の面白さにすっかりしてやられていて、かと思えば別れの場面のものすごさよ。

これは語る力の強さだろうと思う。まだ第1回、さほどなにか描かれたといえるほど物語が深堀りされたわけじゃないのに、しかも初読で与えられた情報を整理しながらの仕分けもすまない状況だというのに、思わず心突き動かされ、ほろりほろりと涙をこぼす。ほんと、漫画の力の強さ、そこに息衝く人たちを確かと感じさせる、そんな語り、見せ方にすっかり舌を巻く思いでありました。

1話に触れた感じ、痛快路線でいくっぽいですね。はたしてこれからどのような物語がつむぎだされるのか、本当、わくわくと楽しみにさせられます。

『赤ずきんとオオカミ少女』

童話の赤頭巾をベースにしたお話です。森に出るオオカミ。人とは相容れない存在であるオオカミを人は怖れ、住処としている森に近づくことも避けている。そんな状況で、本当にオオカミは悪い生き物なのか? 疑問を抱いた赤ずきん。そしてその子が出会うことになるのは、猟師に追われ傷ついたオオカミの少女。人とも言葉を交わすことのできる、わかりあえることもできる、言い伝えに聞くオオカミとはまるで違う存在だったというのですね。

読み終えるまで心配が常にそこにある、そんなお話でしたよ。だってね、好奇心が災いするって話はそれこそいくらでもあるじゃないですか。禁忌とされているものに、本当だろうかって興味を持って、うかうかと触れてしまったが運の尽きみたいな話。これもその系統だったりするんじゃないか。このオオカミの子との交流も、いずれ均衡が破られて、オオカミあるいは赤ずきんが……、みたいな展開だってあるかも知れない。そんな緊張感をともに読んでいたのです。

けれどこの漫画はそうした展開を作らず、優しさでもって物語を閉じました。その分印象は弱まりましたが、物語は苛烈さとか刺激とかだけではないでしょうから、これはこれでよかったのだと思います。

『ゾンギャル』

交通事故で死んだ親友をそのままにできなくて、自作のゾンビパウダーでもって延命、いや生き返ってはいないから、なんていったらいいんだろうなこれ、ゾンビとしてながらえさせてしまった主人公。ゾンビとなった友人は記憶を失って、と思ったら、そういうわけではないのか! 主人公に思いを寄せていた友人の、その思いを遂げたいがために記憶喪失を装い、主人公に可愛がられるチャレンジをこっそり続けているという状況。わりとカオスなシチュエーションがそこにありました。

しかしこのゾンビ、腐敗や破損が抑えられているのか、意識も明晰、言葉によるコミュニケーションも問題なくできて、そういう点では死者と暮らすことで生じる悩みみたいなのは薄い感じですよ。ほら、よかれと思って死者を蘇えらせたら後に大変なことに、みたいな話も多いでしょう。でもこれはそんな話じゃない。友人は死んでゾンビになったものの、主人公からの愛情を受ける毎日をエンジョイ。けど、それはいいんだけど、可愛がられると尊さが爆発して火を吹くのか。うん、ちょっと物騒。セルフ火葬からの鎮火みたいな流れはコミカルで、面白おかしく読みましたよ。

時にシリアスさを帯びる主人公の感情と、主人公に大切にされて嬉しさMAXの友人の感情、そのギャップも面白みを出していました。いやほんと、自分の嬉しく思ってるところを主人公に伝えて、その気持ちを楽にしてあげようよ! みたいなツッコミいれたくなるようなそんな関係に、コミカルさと情感の共存するもの感じました。

それと最後のセルフ土葬。ほんと危うい! 油断すると死が確定してしまうんですね、この子。

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