先日見にいった映画『この世界の片隅に』、いよいよ来週に公開を控えて、私はというとはやる気持ちを抑えるのに躍起になっているわけであります。そんな状況にですね、『この世界の片隅に』の監督が過去に作った映画『マイマイ新子と千年の魔法』、これ、名前だけは聞いたことあったんですが未見でしてね、丁度Blu-rayでリリースされたと、それでもって結構売れて品薄になりつつあると、そんな話を耳にしたものだから、もうたまらん。あ、これはいかん、はやめはやめに押さえておかんとよろしくない、早速注文して、早速鑑賞したんですね。そうしたら、いや、これ、ちょっと、すごい映画ですよ。ほんと、どかっとすごいの受け取りました。
『この世界の片隅に』の制作支援メンバーズミーティングに参加した時に、片渕須直監督の姿勢というものがどういうものか、知ることとなったのですが、『この世界の片隅に』なら戦前戦中の広島ですね、資料を丹念に調べて、また地域の人、存命の方からもつぶさに聞き取りをして、少しずつ、まるで遺跡、遺構を発掘し、出てきた欠片でもって往時の姿を復元しようとするような仕事にすっかり圧倒される思いでいたこと、今も鮮かに思い出せます。
『マイマイ新子と千年の魔法』、まるでその内容も知らずにいたのですが、魔法というからには、異世界でファンタジーで、みたいな感じなのかな、と思っていたら、舞台は昭和30年代の山口県防府市というではありませんか。この情報に触れたその時に、一度にわあっとよみがえってきたのが、さっきいっていましたメンバーズミーティングで感じた監督の仕事についての印象、そのものだったのですね。この監督のことだから、きっと昔の防府という土地を描くにあたり、緻密な下調べをし、土地の人の話を聞き、確かにあの頃のこの町はこんなだったんだと、その時、その場所に暮らしていた人が見れば、そうだ、そうだったと、懐かしさをもって、愛おしくさえ思うほどにありありと、いきいきと描き出しているに違いないのだろうなあ。そして、この想像はまさしく正しかったということが、この映画を見、またコメンタリーやメイキングに触れる過程で、確認できたのでありました。
しかし、ただ土地を、風物を正しく描けば優れた映画になるなんてことはないわけです。なのにこの映画はこんなにも私の心をとらえて、それは、その時、その時代に生きている人たち、その気持ちも、生きているそのあり方も、あたかもすぐその目の前に実在するかのような確からしさをもって描かれていたからに他ならないんですね。だって、昭和30年代でしょう。生まれる前ですよ。昔のことですよ。知らない時代。知らない土地。なのに、不思議ですよ、新子たちの様子見てるとですね、あー、自分もそうだった、そうだったよ、そんな具合に思えることがいっぱいある。いろいろ背景は違っていても、なんら変わらない子どもたちの生活というものがあって、共感する、実感を持って受け止める、そんな瞬間が幾度もあって、そうした瞬間を重ねるごとに、新子たちの物語は、私自身の物語のように、自分ごととして心が受け止めるようになっていったのだ。今になって整理してみると、そんな感じだったと思うのですね。
この映画が不思議なのは、映画の中でふたつの時代が二重構造になって進行していく。普通だったら決して重なりあうことのない、遠い隔りをもって語られるふたつの時代が、重ね合わせに、まるで混じりあうみたいにして語られていくんですね。そしてそれは、私の過ごした子供時分にも重なりあって、混じりあって、ああ、きっとこの映画に触れて、感じるところのある人は、皆そうやって自分の過ごしたかつての子供の世界を、新子の世界、さらに昔の防府にあったかも知れない出来事、それに重ねあわせて、自分自身混じりあうんだ。トリップなのでしょうか。心が寄り添うのでしょうか。どのようにもいえるように思うけれども、そのどれもが違うみたいにも思える、そうした不思議な感触の残る映画。詳しくは説明したくない。実際に、この映画に触れて、まるで事前情報もあらすじも知らないままに触れて、新子たちの世界の息吹きにつつまれて欲しい。
そんなこと思うのですね。
いや、しかし、この映画、聞いたところによりますと、最初は不入りだったけれど、だんだんに知られていって、だんだんに動員を増やしていったっていうじゃありませんか。それ、わかる気がする。だって、これ見たらですね、いや、ちょっと、なんか、すごかったよ。ちょっと、ぜひ、見てみてよ。そして、できれば、感想教えておくれよ。そんな気持ちになるんですよ。見てよ、自分がどう思ったかも聞いておくれよ。そんな、なんだか、思い出語りするみたいに、誰かと感想語りあいたくなるみたいな映画なんです。
だから、あなたにもぜひ見ていただきたい。そんな気持ちでいっぱいです。
- ポストメディア編集部編『メイキングオブ マイマイ新子と千年の魔法』東京:一迅社,2011年。
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