2018年5月12日土曜日

大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック

 買っちゃいましたよ、買っちゃいましたね。いえね、ブルマが、体操服が好きとかそういうわけじゃありませんよ? ショートカット眼鏡がたまらなかった、そういうわけでもありませんよ? 植芝理一ですね。『謎の彼女X』の人ですね。個性的な設定。一癖あるキャラクター。エキセントリックなボーイ・ミーツ・ガールみたいにいっていいのかな? 普通の男の子が恋した女の子、その子はなんだか不思議な魅力をたたえていて……、みたいなそういうの描いて見せたら面白い、そんな印象で見てるのですが、その面白さの本質はどこにあるのでしょう。

『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』もちょっと不思議な設定ですよ。本編ヒロインは、表紙の女の子、大蜘蛛綾であるわけですが、その子にちょっと恋をしている? 男の子、鈴木実との関係がややこしい。実が恋する大蜘蛛綾は、学生時代の母親だっていうんですね。はやく亡くした父の記憶をフラッシュバックで見る。そのフラッシュバックというのは、決まって若いころの母親との思い出で、出会いの頃、デートの状況、実にフレッシュな母の、まだ母でなかった姿に触れ、そして父がそうであったように、実もまたその清冽なフラッシュバックにドキドキと胸をときめかせてしまうのですね。

しかし、ほんと、これ、すごく屈折してる。母親に恋するといえば、楠桂『八神くんの家庭の事情』なんかが思い出されますが、八神くんは、いつまでたっても若々しく愛らしい母によろめくという、ある意味屈折しつつもシンプルな話だったんですが、大蜘蛛ちゃんはそこにフラッシュバックというギミックを持ち込んで、今の母、かつての母という、母のふたつの姿を描写して、それぞれに心揺らがせるポイントを作ってくる。

いやね、可愛いんですよ。さすが植芝理一ってやつなのかも知れない。むかしの母も今の母も、どちらもびっくりするほど可愛く描かれていて、年月を経て変わったこともあれば、違わないところもあって、みたいな描写もあるんだけど、違えばそれぞれの様子が可愛いし、同じであれば昔同様今も可愛いという、なんだこの構造。逃げ場なしって感じなんじゃないか。でもって実は、父の思い出アルバムみたいなベストショットばかり見せられてるわけでしょう? そらあかんわ。そら恋にも落ちますわ。もうほんと、こういうちょっとムズムズさせられる恋愛感情とか描かせたらうまいわ。もう、まいりますよね。

この漫画、ちゃんと同年代ヒロインもいますよ。一一と書いてにのまえはじめと読む、ちょっと変わった姓に名前の女の子。かつて母も入っていた漫研に所属する女の子で、どうも実のこと気になってるみたいなそぶり見せてくる女の子なんですが、ちょっとボーイッシュ、母とは違うタイプの子で、これがまた可愛い。これ、かつての父と母の関係に重ねて、実は一と関係を築いていく……、のではないかと思っちゃあいるんですが、この作者ですよ、そんな普通の着地をするだろうか……。

わからん。まったくわからん。けど、この漫画のおかしいの、作者本人が、マンガのコピー(アオリ)がことごとく気持ち悪いとかあとがきにていってたり、そういう作品を描いてる本人が一番気持ち悪いとかいっちゃってて、でもそういう漫画を面白がってしまう私なんかもきっとやっぱり気持ち悪いのです。ええ、気持ち悪い同士、これを気持ち悪いと思わず、楽しんでいきたいものでありますよ。

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