『まとめ★グロッキーヘブン』は、いわゆるラッキースケベと暴力ヒロインを扱いましてですね、ラッキースケベってのは、少年漫画とかによくある、なんだか派手なトラブル、アクシデントが発生するたび、ヒロインその他を巻き込みましてね、スカートめくったり、着替えてるところに踏み込んだり、その他もろもろ、エッチなイベントが展開しちゃう、そうしたキャラクターを説明する属性。暴力ヒロインは、そうしたラッキースケベに腕っ節でもって報復する、主にメインヒロインがそうであることが多いんですかね? なんか、最近はいわゆるツンデレに付与される暴力というのもあって、割と嫌われてたりとか、いろいろあるらしいですが、まあ、ともかく、そういうの。ただ、この漫画に関しましては、ちょっと様子が違います。なにが違うのか? ええ、ラッキースケベと暴力ヒロイン、その属性を持ったキャラクターの性別、そいつが逆転されているのです。
ヒロイン、海原まとめは、ラッキースケベの父と暴力ヒロインの母の間に生まれた、いわばサラブレッド。ただし彼女が引き継いだ属性は、暴力ヒロインではなくラッキースケベの方であったというのですね。そんな彼女が、同じく親から属性を引き継いだミラクルスター、森島集と出会ったからさあ大変。その集、ええと、男の子なんですけど、母から受け継いだ暴力ヒロインの属性がために、ラッキースケベまとめとの相性はある種ばっちりで、ある種最悪。かくして、ことあるごとにまとめのラッキースケベが集に炸裂するという、嬉し恥ずかしな漫画なのであります。
しかしこれ、別にラッキースケベヒロインはかまわんのじゃないの? いや、そりゃ本人も困るだろうし、周囲の男子も困るだろうとは思うんだけど、舞台は合併した女子校と男子校。女子連中は大挙してやってくる男子たちに興味津々、なんとしてもいい男をゲットするぞ! って、あたかも獲物を狙う猛獣がごとしで、いやほんと、この女子たちに比べたらラッキースケベの方がなんぼかマシじゃない!?
この、ある意味リミッター解除されてる女子像っていうの、少女漫画的というか女子校的というか、そういうのなんでしょうね。めっちゃ面白いわ。
集の葛藤がなかなかよかったんですね。基本ギャグ漫画、コメディではあるんですが、男子が女子にふるう暴力、さすがにこればっかりはギャグにも冗談にもできなかったみたいで、しかも集は柔道部。本当に洒落にならないと、おさえきれない暴力衝動を必死になって我慢しながらも、だんだんまとめに魅かれていく自分を自覚しているんですね。はたしてこの思いは、ラッキースケベ、暴力ヒロインという関係に導かれたものであるのか。持って生まれた属性によって引き起こされる悲劇、それを回避するためには、ふたりが愛しあわないといけない。そうした呪縛がゆえに喚起された感情でしかないのか!?
悩んで、迷って、そして辿り着くふたりの恋の決着はどうしたものであるのでしょうか。いや、もう、これ、すごく真摯でまっとうな恋愛ものですよ。もうね、感動した。自分の恋を自覚して、自分の気持ちにまっすぐ向きあおうとするまとめの言葉がかっこいいの。あのクライマックスシーン。集のずっともやもや抱えていた鬱屈を、その一言で見事に吹き飛ばして、それからのまとめの行動も素晴しい。もう、ほんと、凛々しくて真っ直ぐな目が集を見下ろす、その挑発的で強靭なまとめ! 集のことも、そして読者、すなわち私も、見事に魅了する屈指の名シーンでありました。
この時のまとめが映えるのは、普段の彼女が、特に押しが強いわけでなく、自信持ってる風でもなく、なんとなく状況に戸惑いながら流されている、そういう感じの女の子だったからだとも思うんですね。ええ、恋を自覚すると女子は強いよ? そうした、いざとなったら度胸一番、どーんとやってみせる女子の心意気というものが溢れかえっていた、そう思うのですね。
ああ、そうそう。集の友達の美少年、帆波カイについての評判、超エロイってのに対し、どスケベ野郎だって……、と返すまとめ、あれは実に面白かった。もう、この子、大好きです。
- みたおでん『まとめ★グロッキーヘブン』第1巻 (KCx) 東京:講談社,2015年。
- みたおでん『まとめ★グロッキーヘブン』第2巻 (KCx) 東京:講談社,2016年。
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