『まんがタイムきららフォワード』2023年10月号、発売されました。表紙は『花唄メモワール』。夏物の着物に、麦わらのカンカン帽がよく似合っている梅であります。夏空の下、縁側で食べるアイスキャンディー。夏らしさ感じさせる鉢植えの朝顔、背景にはヒマワリが咲き誇っている、それら花が着物の柄に、そして帽子の飾りにも顔を出して、梅、全身で夏を表現しています。
今月は新連載が1本、新規ゲストが4本です。
『ネコかぶりアンコール!』
学校で、明るく元気、可愛いと人気の妹。けれどその本性はまるで違っている。粗暴? 粗雑? 学校では猫を被っているというのですが、これ、演技するのが音子の自然体というわけではなく、結構無理しているというんですね。
そのせいでストレスたまりまくり。でも今さら、皆の期待を裏切ることもできない。必死に学校の人気者を演じているのですが、そんな彼女にあなたの秘密を知っている旨の手紙が届いたものだから大変!
脅される? 強請られる? 心配で気が気でない妹に付き添う兄。そうしたら、そこにはえらい個性的な女生徒、祭木がいた。いわく、その演技力をもって演劇部に入部してほしい。
これは音子にとっても悪い話ではないのだよと、半ば脅しに近い言動からお得な状況提示されるにいたって、兄を巻き込みつつその申し出を受けることに。
一度つぶれた演劇部の再始動。祭木、兄、妹の3人でどこまで守り立てられるのか。その復活劇も含めて見どころありそう。それ以上に兄と妹の関係も変化するのかどうかとか、肝心の音子の演技、それがいかなる発展を見せるのか。などなど、興味かきたてるところ大であります。
『あなたのココロの見えないトコロ』
人の心を読むことができる、心読症なる病気。勝手に人の心を覗き見るからと、危険視されてイジメの標的とされたことが原因で、人と関わることを避けるようになった霧香と柴山光との出会いの描かれた掌編。
人の気持ちを読めるとはいえ、まるごとすべてわかるわけではない霧香と、より以上に深く読むことのできてしまう光。ともに病気のせいでイジメられ、排斥されてきた過去のあるふたりだけど、ネガティブな気持ちに触れ人を避けるようになった霧香と、それでも人と関係を持ち続けたいと前向きな姿勢を崩さない光の対話。一見、対照的に見えるスタンスながら、光自身も過去の人間関係をリセットするべく逃げてきた。決してただポジティブなわけではない。心の傷を抱えて、時には自分を守るため逃げざるを得なかった。その現れが違うだけで、通底する思いをともに持っているがゆえにわかりあえたふたりの関係というのは、見ていて強く引き込まれるものがありました。
これは、ただ光がポジティブというだけでは成立しなかった関係だった。霧香にしても、内にこもっているだけの子ではなかったからこの結果に辿り着けた。似てないようでどこか似ていて、似ていながらも現れ方が違っていたふたりだからこその関係性。見どころありでした。
『はなまるテレキネシス』
超能力姉妹のお話。物体を自由に動かせる姉、はなまる。反対にものの動きを停めることのできる妹、ぺけ。小さなころは、姉の能力の方が便利と思っていたふたりだけれど、成長した今、使い出があるのはむしろ妹の能力だったと判明。
ここで、姉が意固地になって、自分の方が優れていると妹に見せつけたい。いや、自分自身にこそそうと納得させたかったのかも知れない。無理して張りあって、張りあって、結果的に自爆してる。そんな漫画だったんですね。
しかし、姉の自爆っぷりがすごい。可愛いキャラじゃないの!? そういいたいほどに破壊的な表情見せる姉、どんだけ必死なんですか。無理して無理して、ああ、姉の方がよっぽど聞き分けがない……。
聞き分けのない姉に譲ってみせた妹の気づかいあって、ああこれで大団円かな? と思わせてからのの破壊的な落着! ほんと、姉はもうちょっとだけでも気持ち穏かに生きなさった方がよいのではないかと思います。
『桜色フォトグラファー』
お隣に越してきた中華飯店。そこのお嬢さんの紅花さんは、写真集で見た桜が見たくてたまらない。かくして主人公さくらは紅花をともなって写真集のさくらを見にいったのですが、ああ、この写真集はさくらの亡くなった父が生前出版したものだったというのですね。
父の存命中は、一緒に写真を撮って、たくさんいろいろ教えてもらっていたさくらだけど、父の死をきっかけにカメラから遠ざかっていた。今も写真を撮ろうとすると手の震えが出てしまう、それほどに心に傷を残してしまっているというのですが、日本の景色に、写真に興味を持っている紅花を通してなら写真に向きあえるかも知れない。
最初は、紅花に写真の撮り方をレクチャーし、紅花が手にしたカメラをもって、さくらが写真に再度向きあう、そんな話になるのだと思っていたのですよ。けれど違った。吹いた風になびいた紅花の髪。それを見て、さくらの心に芽生えた思い。どうしても撮りたい、そう思える被写体をついに見つけることができた。
ええ、紅花を通じ写真に向きあうことのできるまでは正解でも、紅花を手段とするのではなく、紅花こそが主題となったのですね。
意外と思えた展開と、けれどそれでこそ伝わるさくらの高揚と。ふたり、これからもこうやって一緒に写真撮っていくのかな。いや、紅花は撮られる側になるのか!? ともあれ、カメラを、写真を仲介としたふたりの出会いの物語。その表情も、心の模様も、また愛らしいと思わせてくれる、そんなよさも溢れていましたよ。
『僕が勉強したくなった日』
15歳高校生男子の冒頭のモノローグ。お気に入りの家庭教師モノで抜こうというの、これはきっとミスリードに違いない。女家庭教師モノと思わせておいて、年上のお兄さんが好きなんだろ? そうなんだろ? そうに違いない、そうであってくれ!
全然違いました! 勝手にリードをミスってました。普通にお姉さん好きの少年でした。
子供の頃に一緒に遊んでいたお姉さんが、成長して帰ってきた。今や大学生。バイトに忙殺されていると聞かされて、息子の家庭教師をやってくれないかとその母からお願いされたというのですね。
しかし少年、不埒なやつです。お話しながら目は胸に吸い込まれて、しかもいうにことかいて整形した? 発言ですよ。そこはですね、すっかりきれいになって云々、褒めておけばいいんですよ! と思っていたら、まさにこういうデリカシーのなさや、あからさまな振る舞い、それこそがテーマでありました。
女性が苦手、照れ隠しで変な言いまわししちゃうのかな? と思ったら、ほぼそれで学校での人間関係しくじりまくってるのか。男子の友達もほとんどいない。そうした少年のこと、半ばからかいながら、いろいろ学んでいこうといってくれるお姉さん。これ、ほんと、稀有な存在だと思う。
これに甘えることなく、自らを律して、振る舞い言動を正していくのですよ。
- 『まんがタイムきららフォワード』第17巻第10号(2023年10月号)
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