ああ、面白い。『敗者復活戦!』。辻灯子らしさがここでも如何なく発揮されてと申しましょうか、個性的でマイペースな女性たちが大活躍する、そんなお話。舞台は古書店ゆかし堂。古書店社長の孫娘、びっくりするような美人でけれどいろいろ残念な月穂サマに、電撃JK通称ニーナ、新名一水。そしてニーナの友達、しっかり者の長谷川夕記。皆それぞれに、いや夕記ちゃんはそんなことなんだけど、この子はいろいろよく気がつくし、なんというか微妙にがめついんだけど、でもそれはしゃあない、ええと、皆それぞれにアクが強めのお嬢さん。そのやり取りも軽妙で面白く、ああ、辻灯子漫画はよいなあとあらためて思える、そんな漫画でありますよ。
この漫画、なにがよいかって、やっぱり登場人物がチャーミングなところかなあと。主人公はニーナですよね? この子の、いろいろとぼけてたり、甘えんぼうだったり、電気発したり、けれど底抜けに明るくって、笑顔も愛らしくって、本当、愛されて育ちましたっていうのがよくわかる子。見ていてなんだかうきうきする。夕記も、ちょっとクールで面倒見がよくって、けれど結構大変な状況にあるといえばあるんだよなあ。そういえば月穂サマもだな。マイペースで皮肉屋で、駄目なところもいろいろあって、最初なんかはキツい人だなあ、みたいに思ってたんだけど、なんでかいつしか可愛い人だなって、愛らしい人だなって思えてきたんだったっけ。
この可愛い、愛らしいというのがね、辻灯子の描く人独特のそれで、『愛燦燦』の歌詞ではないけれど、時にうまくいかないところがあったり、いろいろわだかまり残ることがあったりしても、それでも日々をその人なりに頑張って、ベストじゃないかも、ベターでさえないかも、それでもその日その日を暮らしていく。そうすれば、ささやかな喜びも慰めも見つかるかも知れない。そして、そうした時に見せる笑顔のいじらしさ。
辻灯子の漫画には、そうした人の暮らしの機微が、ちっとも大げさにでなく、悲愴感なんて微塵もなく、晴れやかに、のどかに描かれていて、それだからこそ、その人の人となりに愛らしさがふわっと軽やかにただようのだと思っています。泣いたこともあるかも知れない、悔やんだこともあったかも知れない。やりきれないって思ったことも。けれど、そうしたことは今のおかしみ、明るさ、ほがらかさ、あるいは人の悪さの向こうにかすんで見える程度にとどめられて、けれどただ底抜けに明るいわけじゃないっていうのもわかるから、その人たちのことが、愛らしいと、愛おしいと思えてしまってしかたないのです。
この本のタイトルの『敗者復活戦!』って、なにが敗者でなにが復活なの? 月穂サマ、敗者? 最初はなんともわからなかったのですが、途中のエピソードで社長がその言葉に触れるんです。それでなんとなくでもわかってきて、ああ、いいタイトルじゃないですか。ええ、古書がそうであるように、人もいつもそのようにあれれば、救われる機会があるならば、それはどんなにかよいことだろう、そんな感想抱いたのでした。
ああ、そうそう。本編途中に懐かしい人、ええ、これゲスト掲載時のボーナスみたいな話ですね、あって、いろいろわくわくさせられたわけですが、カバー下のおまけですよ、ここにも、ええーっ、あの人たちが! ほんと、この漫画、嬉しいこといろいろしてくださいます。
- 辻灯子『敗者復活戦!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2016年。
- 以下続刊
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