2015年3月31日火曜日

箱庭ひなたぼっこ

 ついこのあいだはじまったところ、そんな風に思っていたら、ああ、単行本になりましたよ。女の子4人の部活に勤しむ、そうした様子が描かれて、実にフレッシュ。舞台は、植物同好会。ええ、主人公、鈴谷陽向を筆頭に、植物が好きな女の子たちがずらり揃っているんですね。おっと、一之瀬蘭は植物じゃなく、虫が好きだったんだっけ。ともあれ、それぞれに違った傾向持って、植物ないしは自然に対し愛をそそいでいる彼女らの、意外や真面目で、かと思ったらどこかおかしい、そんな活動の様子、実に魅力的で、心ひかれるものがあるのです。

鈴谷陽向のキャラクター、一番最初の登場が、野草に、野の花に語りかけている場面だったのですが、友人やっちゃんにいわせれば変な植物ポエム、本人によると植物に贈る詩、それが実に素敵で、ぐっと引き付けられるものあったんですね。その詩にあらわれる陽向の気持ちは、植物、花への愛にあふれたもので、また花へと向ける眼差しもまっすぐで実に美しい。素朴な子なんだと思います。けれどその素朴さに、花に向けるひたむきさがあわさって、その愛の静かにして深く豊かであることよ。瑞々しい感性の光る、そんな彼女の姿は本当にまぶしくて、とてもチャーミング。彼女もまた一輪の花なのだ。そんな風に思わされることしきりであります。

表紙をめくったところにある「表紙植物図鑑」。表紙、カバーに描かれた植物が一口コメントとともに解説されている、これが素晴しかった。巻末には「作中植物図鑑」、そして「蘭ちゃんの一言虫図鑑」があって、ああ、この漫画における植物の、そして虫の重みが感じられるようで素敵だった。本編にてどんな描かれかたしてただろう、図鑑からまた再び本編に立ち返って、より興味深く読むことができる。そんな味わいも魅力的。そして、表紙にいう、2人のお花は本文にて解説致します! 皆にそれぞれ割り当てられた花について、それぞれ登場人物が自らの言葉で語るという趣旨は、花の紹介にして、彼女らの自己紹介でもあると感じられるものでした。とりわけ花言葉、それらは彼女らをそのままに物語るようでありまして、これには深く感じいりましたよ。そうかあ。彼女らの花、それはまさしく彼女らを象徴して、あらわす、そうしたものでもあるのだなあ。花の、彼女らの魅力を、ともにいっそうに増さしめた、そう感じたのですね。

登場人物、メインは4人。鈴谷陽向に千堂ゆかり、一之瀬蘭、そして先輩にして会長の橘翠子。皆、個性的で、そして不思議と色気のある、そんな娘さんたちなんですね。野の花が好き。華道をたしなむ。虫が好き。そしてハーブが好き。皆、植物や自然に対する興味はちょっとずつ異なっていたりもするけれど、部活を通して、あるいは日常のコミュニケーションを通じて、少しずつその興味をわかちあい、少しずつ打ち解けていく。その過程で、意外な面を知ることができたり、またどんどんその個性が開花していったりするんですけど、その開花が本当に面白くって、会長なんかはとりわけ顕著、ここぞというところで、がっと掴んで、ぐっと持っていく、そんな牽引力が素晴しいのであります。

けれど、そうした牽引力を持つのは決して会長だけではなくって、皆がそれぞれに魅力を持って、ここぞという時にその魅力を発揮して、それは時にコミカルで、時に若干のシリアスも感じさせて、その幅の広さ、懐の深さが、この漫画に独特のおかしみをもたらせているんですね。華やかな子たち。そのやわらかで、ふんわりとした風合いにのる色気は上品に、そしてくすぐるおかしみが、互いの距離を小さくさせて、その近しさゆえの面白さに導いていく。丁寧で繊細な表現と、時に大胆な思い切りが同居する。その感触が、この漫画に独自の存在感、面白くそしてチャーミングな愛らしさをもたらしている、そう感じさせるのです。

  • ちろり『箱庭ひなたぼっこ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2015年。
  • 以下続刊

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