2020年1月14日火曜日

運び屋

 映画を見ました。夜、テレビがいい番組をやってなかったので、これなら映画見る方がずっといいな。Netflixのアプリ開いて、なにかいいのないかなあ、あまり長くなくて、親世代にも受け入れられそうなやつ。と、ありましたありました。主演、クリント・イーストウッド。タイトルは『運び屋』。うん、とてもわかりやすい。先日見ていたドキュメンタリー『密着!マドリード・バラハス空港警察』、普通の人が麻薬の密輸に手を染める。その裏側? 実情に迫るみたいな映画だったりするのかな? なんて思いながらこれに決めたのですね。

見終えてびっくりしましたよ。これ、実話ベースなんか! ざっとネットで確認してみると、退役軍人で園芸家で、ネットで職が立ち行かなくなり麻薬の運び屋はじめて、その呼び名がエル・タタ。名前こそは違うけれど、基本のところ、多くを映画に取り入れてるわけか。

侘しさ感じさせる映画でした。侘しい老人の話が苦手なんですよ。

昨年のことですけど、恥ずかしい話なんだけどおにぎりが欲しくてアプリいれたらね何十万ってとられちゃって、高いおにぎりになっちゃった……、自嘲ぎみに話してるお爺さんをテレビで見た時など胸がつぶれそうだった。

他にも映画でもドラマでもドキュメンタリーでも、昨年末、年明けと、退職したら妻と一緒に旅行でも、そう思っていたのに、妻が病気で死んじゃって……、みたいな話を聞かされて、お父さんね、仕事なんてどうだってよかった、妻のほうがもっとずっと大切だったって、亡くしてようやく気がつくの。気がついてももう遅いの。悔まれて悔まれて、それはそれは悲しそうに話すその様。つらい。もう取り戻せないというのが本当につらい。人生って悲しいなあ。そういう思いに支配されてしまうんですね。

この映画は、その点まだましだったのかも知れないなんて思います。主人公、アール・ストーンは仕事に、自分の属するコミュニティにうつつを抜かして、家族を二の次にしてきた。記念日もセレモニーもすっぽかして、その結果、妻とは離婚。娘は父を毛嫌いして口も利かない。

さらに加えてネット時代に対応できず、心血注いできた園芸の仕事も駄目になってしまうわけでしょう。もうなにもかもなくしてしまって、残されたのはボロいピックアップトラックだけで、みたいなみじめさ。けれど、ここからの起死回生が麻薬の運搬ってんだから尋常じゃない。というか、犯罪歴もない、交通違反さえしていない人間を、麻薬の輸送という重犯罪に引き込む、そんなきっかけが日常のすぐそばにあるアメリカってのもまあ酷いなって。いや、このあたりは映画のテーマではないんですが。

主人公もわりかしろくでなしなんですよね。だってね、最初はわからないままにやってた闇仕事だけど、途中で自分がなにをやってるか理解して、それでもやめられなくて仕事続けちゃうわけでしょう。最初は、なんかヤバそうだから1回だけ、これっきり、みたいな感じだったのに、2度3度と続けるうちに、なんだかすっかり慣れてきちゃって、また支払われる報酬もどんどん多くなる。そうなると、最初は家族のため、借金の返済など身近な支出に留まってたのが、再びコミュニティのために大金出したりね、ええ、見栄だよねえ、これ。失ったものを取り戻す過程ともいえるかも知れないけど、むしろ積極的にいい目を見ようとしてる。若い女と遊んじゃったりね、麻薬のボスの覚えもめでたくなって、豪勢なパーティに出ちゃったりね、ええ、この欲? 人間の堕落に向かう道、その描写、結構なリアリティあるもんなんじゃないかなあって思ったんですよ。

最初にいってました。この映画がまだましだったっていうところ。侘しい老人であった主人公が、本当に失う前に大切な人とふたたび心を通わせることができた。決定的には間に合わなかったのかも知れないけど、それでも完全に手遅れとはならなかったところ。それは救いだったと思います。家族が一番、仕事は二の次。そういって人に語って聞かせていたとおり、最後の最後に家族を一番にすることができた。それがこの人の悔いを雪いだんじゃないかな。

だからこそ、最後の最後、この人は抗わなかったんじゃないかなって、もうすべてあれでよいと受け入れられるまでになったのかなって、思ったんですね。そういう点では、これはハッピーエンドに近いんだと思う。不器用で利己的な男の、最後に果たしえた愛情のドラマと思っていいのかも知れないなあ、そんな感想いだきました。

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