2014年9月14日日曜日

オリンライジング! — アイドライジング!外伝

  ハセガワ・オリン、見事燃焼してみせたのか。見てくださいよ、3巻のこの表紙! 舞い散る紙吹雪の下、見事、してやったりというこの表情。どんだけ魅力的であるのだろう。戦うアイドル、アイザワ・モモの活躍を描く『アイドライジング!』。その外伝である『オリンライジング!』では、モモのライバル、ハセガワ・オリンの戦いが描かれて、そしてこの3巻こそは、モモ、オリンふたりの戦い、あるいは関係にひとつの決着がつけられるのですね。思えば、ふたりの関係は、モモのアイドルとして歩きはじめる、その時に既に始まっていたのでした。だから、モモを描くにはオリンははずせない。また、オリンを描くにはモモをはずすことはできない。ええ、これはふたりの見事な山場にして、素晴しい決着。そしてまた新しいはじまりであった。開かれたエンディングが清々しくさえある。そんなオリンの生き様、オリンライジングがこれでもかと表現されていた、そして伝わってくる物語であったのですね。

なにからいったらいいんだろう。オリンの事実上のお披露目となった、マツリザキ・エリー、アイザワ・モモ戦への乱入。あれが、モモと共に挑んだリベンジマッチへの布石となっていたことか。最初は、派手な負けっぷりでもって観客を魅了すべく、すなわちはじめっから負けるために戦った。その彼女が、今度こそは モモとともに勝利をつかみに格上の相手に挑む。同じ演出を選びながら、しかしその心の奥底に根付く思いはまったく違っている。なぜか。なにが彼女を変えたのか。そのオリンの辿った心の道行こそが、この物語の背骨であることは間違いなく、けれどそれをいったら、オリンの屈辱的なはじまり、そこまで遡らなければならないし……。

多くのものが、オリンの決着に流れ込んでいるんですね。モモとの確執。下積み地下アイドル時代に掴んだものから、アイドライジングの舞台に臨んで、その過程で得たもの、あるいは与えてきたもの。それらすべてが、最後のモモとの勝負のゆくえに繋がっている。豊かだったと思うのです。どうすれば観客を楽しませるか、それに特化したオリンの戦いは、時に無様で、時に滑稽、あるいは卑怯にさえ見える。真っ向勝負なんて柄じゃないといいたげな、変幻自在なエンターテイナー。けれどそんなスタイルの向こうには、いつだって彼女の真っ向勝負があった、全力だった。時には納得いかないことも、いやむしろ、いつだってアウェイだったといっていい。そんな舞台ばかりだったのに、オリンは自らを賭け金にして、逆境を引っくり返してきた。観客を沸かせ、魅せるために燃焼しきって、だからいつだって、あんなに清々しい負けっぷり、その影に見せる最高の笑顔はオリンと読者だけが知っている — 、ええ、特権ですよね。魅せられた、それは読者も同じだったんですね。

そんなオリンの完全なアウェイ、負けることで勝つ彼女が、本当に負けてしまった戦い。それが、この漫画のテーマであるオリンの生き様、オリンライジングを際立たせていた、そう思っています。彼女が本当に戦わなければならないものはなんだったのか。彼女の戦いの舞台は、はたしてどこにあるのか。それが掘り下げられて、ええ、そこではオリンの生き様、勝敗の外側にある勝利を掴むための真っ向勝負、それが失われていたんですね。なによりも大切にすべきだった、オリンのスタイル、それが忘れられてしまった理由。ずっと根深くオリンの心に潜んでいた確執や嫉妬がより明確にされた。オリンは、自分の弱さに立ち向かうことができなくて、結果、自分でそうと決めた自分の生き様、そいつを貫くことができなかった。勝負の以前にすでに負けていたんです。誰のせいなのか。モモなのか。だらしなかった自分なのか。鬱屈していたもの、すべてを曝け出したあの瞬間、オリンの戦いが転換したんだと思う。物語が、ドライブにシフトを入れた、そうした実感をさせたあのシーンは、これまで描かれてきたものを、一気に掴んで、ひとつの方向へと向かわせるための起爆装置であったんですね。

挫折があったからこそ、その後の躍進が光る。けれど、ほんと最後の最後まで、油断できないのがオリンライジングです。やってくれましたよ。けど、あのラストへの道行は、そのまま未来への布石となって、そしてモモに対するオリンの約束であったのですね。おそらくは、より苦しく険しい道を選ぶことになるだろう選択なのだけれど、自分の気持ち、その奥底にある信念に従わないではおられなかったオリン、彼女のその選択こそがオリンライジングである。打算もなく、自分の生き様、その内なる声に従った結果がこれ。ほんと、最後まで油断できない彼女の、彼女らしい、清々しい決着。その未来へと開かれた様は、きっと彼女がこの先辿るであろう道行、その可能性の大きさを感じさせるものであった。目の離せないアイドル、オリンの生き様が凝集されて、際立つ — 、そう思わされるものだったんですね。

ああ、そうそう。ちょっとネタバレになるから、嫌う人はここでストップですよ。モモとオリンによるリベンジマッチで、モモの切り札であるトリックアーツが温存されたまま決着して、あれー、使わなかったのかあ、まあオリンちゃんが主役だもんなあ、そうぼんやり思ってたんですよ。いや、ほんと、予測できないって。いや、ほんと、あれはやられました。今だにやられるピザもそうですが、ほんと、ハセガワ・オリンは必ずやる。ド肝を抜く。思いきりやられて、それがもう最高です。

  • 藤島真ノ介『アイドライジング!』第1巻 広沢サカキ原作 CUTEGキャラクターデザイン (電撃コミックスNEXT) 東京:アスキーメディアワークス,2013年。
  • 藤島真ノ介『アイドライジング!』第2巻 広沢サカキ原作 CUTEGキャラクターデザイン (電撃コミックスNEXT) 東京:アスキーメディアワークス,2014年。
  • 藤島真ノ介『アイドライジング!』第3巻 広沢サカキ原作 CUTEGキャラクターデザイン (電撃コミックスNEXT) 東京:アスキーメディアワークス,2014年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第1巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第2巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第3巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第4巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2012年。

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