2014年9月1日月曜日

アリノス☆ワンダーランド

 単行本で読み返してみると、すごいな、構成しっかりだ。ルリとみか、ふたりの女の子の同居もの。しっかりもののルリと甘えんぼのみか。いや、逆じゃないの? 甘えんぼのルリとしっかりもののみかの話ですよね? いえ、そのどちらでもあるっていうんですね。ふたりは子供の頃からの仲良しだったんだけど、いつのころからか立場が逆転してしまったというのです。昔のルリは凛々しくて、しっかりしていて、かっこよくて、みかにとっての憧れだった。なのに、なぜルリは変わってしまったの? 今はすっかりダラけてしまって、でもそんなルリがふとしたきっかけで昔を取り戻すことがあるんですね。なんとかして、昔のルリに戻したい。そんなみかと、なんとしても今の自分を維持したい、そんなルリのかけひき。それが実に見事、面白くてたまりませんでした。

いやね、みかがやばいんですよ。大人しくて常識人で、面倒見もいい、そんな子なんですけど、昔のかっこいいルリに出会うと、タガがはずれる。いや、一回だけか、でもあのみかは必見だと思う。どれだけこの子が、昔のルリのこと好きで好きで、憧れていたのか。それが端的に描かれた、そんなシーンだったと思うんですね。内気で引っ込み思案だった自分の手を引いてくれたルリに、友情を、憧れを超えた感情を抱いていたみか。それはみかの思い出エピソードの端々に語られて、そしてその気持ちは今もなにも変わっていないというわけです。だからこそ憧れのデキるルリに戻って欲しい。そんなみかの一途な思いは、果たして叶うのかどうなのか。

この物語は、昔のルリに戻って欲しいみかと、みかに甘えられる今の関係を維持したいルリの感情のせめぎあい。なにかのきっかけでルリは昔に戻る。けれどルリにとっての昔のルリとはどういうものであったのか。それが語られることで、だんだんわかってくるものがあるんですね。ルリは決して変わってしまったわけではない。むしろ、今、みかの前で見せているもの、それこそがルリのルリらしい姿ともいえる。なるほど、そうなのか。あの、凛々しくかっこよかったルリとは、ルリのまとっていた鎧であったのだな。そうとわかれば、わからなくなる。果たして、みかの望むように、かっこいいルリに戻ることがルリにとってしあわせなのか。ひいては、ふたりにとってのしあわせになるのか。それがわからなくなるんですね。

対立する願いを描いて、それをふたりともに納得いくかたちで決着させる。その道行が実に素敵であったのでした。ふたりの願い、それがなにに根差すものであるのか、どうした思いに発したものであるのかが、回を追うごとに次第に明らかになっていく。終盤で一気に向かう方向を明確にするところなどは、ああ、ついに、こんなにもふたりにとって望ましいところに着地点を見出して、本当に素敵な物語だったなって思わされたんですね。

ふたりの間にあったものは、ちょっとの誤解。必要だったものはちょっとの勇気だった。ふたつの問題がともに解消して、その先にあったのは、昔のふたりでも今のふたりでもない、これからのふたりの関係だったという、そこにこの漫画の最大の魅力と物語の醍醐味があった、そう感じています。

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