『光れ!メシスタント』、この漫画は面白い。漫画の現場ものといいましょうか、それともこのごろはやりのご飯もの? 最初はですね、後者なのかなって思ってた。漫画家志望の青年、遠野光。彼が漫画修行をしたいと思い応募してみたアシスタントの仕事。はじめてのプロの漫画の現場にて、自分自身思いもしなかったご飯づくりの才能を見いだされることになってしまった彼が、飯スタントしてその能力を発揮していく漫画なのです。それほど凝った料理は出てこない。けれど、肉好き、野菜好き、両極端な同僚のリクエストに答える光。その時その時のアレンジなど、なるほどこれは参考になる。面白くてタメになる、そんな料理の漫画です。
『光れ!メシスタント』は『まんがタイムスペシャル』に連載されている漫画です。四コマ誌ですね。この四コマ誌というの、意外かも知れませんがターゲット層に女性が含まれていたりしましてね、もともと伝統的に料理もの枠というのがあるんです。毎日のご飯づくりに役立つ漫画、献立のヒントになるような漫画。具体的なレシピものっていて、ご飯寄りのもの、おつまみ寄りのものなど、それぞれ漫画によって傾向を違えて、これらが結構面白い。こういった雑誌の傾向考えると、最近はやりのご飯もの、これは食べる側メインかな? そういうものと四コマ漫画は相性がいいのかも知れません。昔からのノウハウ活かせますもんね。
さて、この漫画ですよ。そうしたご飯もののよさというもの、ばっちり備えています。今日はこんなの食べたい、やる気出したい時、疲れてる日の夜食、暑くてバテ気味だから、そうした多彩なシチュエーションに応じた献立が、肉が好き、野菜が好きという好みに応じたアレンジつきで紹介される。できた料理をみんなで食べるシーンも、食べる皆の表情が魅力的。どういうところがおいしいかという感想もついて、ああ、これ食べてみたいなと思わせてくれる。
けれど、これだけじゃないのが、この漫画のよさであるのですよ。遠野光は飯スタントとして重宝されてはいますけれど、あくまでも作家志望。いずれは漫画家になりたいと思ってる。そんな彼が、料理にしか期待されていないんじゃないか? このままここでご飯作ってていいんだろうか、迷ったりするんです。その迷いや悩みは漫画家の先生もちゃんと理解してくれていて、そして同僚のアシスタントふたりも、そんな彼のことよく見てくれている。3人が3人、それぞれ違った視点から光のこと指摘したりはげましたりしてくれて、光もそうした場で、料理の腕をぐんぐん伸ばしつつ、漫画の腕もあげ、気持ちをだんだん固めていく。そうした光の成長ものとしての面白さがしっかりしているから、読んでいてとても気持ちがいいんですね。伸びゆく人の物語、それは見ている私をも高揚させて、ついつい目が離せなくなってしまいます。
キャラクターも魅力的です。漫画家の先生、近藤早月。にこにこして、優しくて、さみしがりやで打たれ弱くて、たまにちょっとわがままいったりするのも可愛くて、けれど漫画となるとぴしっと厳しくなる。先輩アシスタントの檜山陽。この人はしっかりと現場をまとめて、いわゆるチーフアシってやつなのかな? この人が肉好きなんですね。と、ここまでがすでにデビューしてる組で、残るひとり、中辻杏、光同様、デビュー前の漫画家志望。この人の存在が大きいと思っています。負けず嫌いで、檜山にもどんどんつっかかっていく、そんな彼女がデビューにこぎつけられない。そうした境遇を光と分かち合ったりなぐさめあったりするのではなく、むしろ光は甘いと、そして自分もいたらないと、きびしくきびしく取り組んで、その悔しさも焦りも時にあらわにする。光にとって同じ立場の中辻がいることで、デビュー前の自分の立場、まだプロではないということに甘えてはいけないと、光は強く意識することになるのだし、自分よりはるかにうまい中辻がまだデビューにいたらないというそのことが、光の歩む道のきびしさを、より一層に際立たせることにつながっていると思ったのですね。
でも、光はくじけない。むしろ最初よりもずっとずっと前向きになって、これは近藤早月の現場の暖かさや、先輩ふたりのよい影響あってのことだろう。それがすごくよくわかるんですね。料理ものとしての面白さがまず表立つこの漫画。そこに職場もの、そして夢に挑戦する若者の成長ものとしての魅力が加わって、それらが互いに互いのよさを引き出し、どれもの面白さを強めている。このどれもがおざなりでないところ、どれもがしっかりとした面白みを持って読者をひきつけてやまないというところ、それがこの漫画の魅力であります。
- 310『光れ!メシスタント』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2016年。
- 以下続刊
0 件のコメント:
コメントを投稿