2004年12月8日水曜日

笑う大天使

矢沢あいの『下弦の月』が映画になったといって驚いていたら、今度はもっと驚きました。川原泉の『笑う大天使』が映画化ですよ、お嬢さん。昭和末期から平成にかけて、日本中の乙女と青少年の心を奪った『笑う大天使』。そしてその最終巻収録の「オペラ座の怪人」では、私もあなたも泣きました(泣かんかった?)。

「…やめろ、その電話にでるんじゃない —ロレンス! —電話を切れ……」

このシークエンスは、川原作品の中でも屈指です。だから私は、他の漫画がいくらよいと思うことがあっても、最後には川原漫画に戻ってきてしまう。あのセリフ一言一言の重さ、コマに凝縮された時間。重苦しくて、息がつまるようで、けれど目を離すことなんてできない。私にとってのマスターピースのひとつとうけがいますよ。

でもまあ、映画の範囲というのはコミックスの一二巻「お嬢様連続誘拐事件」までということですので、残念ながらおハルさんは映画にはでません。けど、果たしてこれが残念となるか、よかったとなるかは、それこそ映画の出来次第なので、今はなんともいえないですよね。

映画化すると聞いて、本当は私は、勘弁してくれって思ったんですよ。実はこれは『下弦の月』でも思った。けれど今回は、『下弦の月』とは比べ物にならないくらいに思った。だってさ、だってね、川原泉のらしさというのは、映像化して出るだろうかと思うんですよ。あの独特の間や雰囲気は漫画でこそ生きるのであって、もしうかつにこれを、単純に映像に移すだけでいいやみたいな安易さが見えれば、きっと台無しです。なので、どうせやるなら、川原のらしさにこだわらず、きっちり映像映画としてのよさを追求して欲しい。川原のタイトルで、当時のファンがついてくるだろうみたいな姿勢が見えれば、もう私は暴れますよ。

『笑う大天使』は川原の大出世作で、それだけに川原のよさが多層的に盛り込まれています。ちょっと周りからはみ出していることへの悲しさ、しかしそれでも人間が好きだという姿勢、決して負けないという不屈の態度、人情もあれば友情もある。あるいはちょっとした恋愛の要素もあったかも知れない『笑う大天使』を私は愛したんです。

なので、うかつには扱ってくださるなよと、けれど出来栄えに興味があるのも事実なんです。なので私は、期待と恐れを込めて映画化を横目に見続けたいと思っています。

  • 川原泉『笑う大天使』第1巻 (白泉社文庫) 東京:白泉社,1996年。
  • 川原泉『笑う大天使』第2巻 (白泉社文庫) 東京:白泉社,1996年。
  • 川原泉『笑う大天使』第1巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1987年。
  • 川原泉『笑う大天使』第2巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1988年。
  • 川原泉『笑う大天使』第3巻 (花とゆめCOMICS) 東京:白泉社,1989年。

0 件のコメント: