2004年12月17日金曜日

Azumanga Daioh

  もういうまでもなく皆さんご存じの『あずまんが大王』。ある程度広く漫画を読んでいる人、あるいはちょっとおたく気味である人で、この名前を耳にしたことがないという人はさすがにいないんじゃないかというくらいの有名タイトルです。

アニメにもなりました、映画にもなりました(映画はたった五分だけど)。そしてその名は海外にもとどろいて、出てるのですね、英語版。最初はひっそりWeb上で私家版が公開されていただけだったのが(つまり海賊訳)、ちゃんとした出版者からリリースされて、しかもそこそこ人気のようなのですよ。

私がはじめ見付けたのはフランス語版の私家版だったのです。ほー、ヨーロッパでもあずまんがは人気ですかと思っていろいろ調べてみたら、いろいろわかりました。私の知るかぎり、仏訳私家版が二種類、そしてそのもととなったのは英訳私家版であることがわかりました。なんでか? それはですね、『あずまんが大王』におけるキーパーソンである滝野智の名前が、全部Takino Tomoeになってたからなんですね。翻訳された分量や公開時期から見ても、仏訳私家版が英訳私家版を定本としたのは間違いないといってもよいでしょう。

さて、ちゃんと翻訳されている版ではどうなっているかといいますと、智初登場のシーンにおけるセリフは、実にI'M TOMO TAKINO! うんうん、実によいですね。オリジナルに忠実な訳がついています、って実はこれは名前に関してだけで、ほかに関してはむしろ原典を翻しているのが英訳ライセンス版であったりするのですね。

例えば、同じく智の名前をとってみれば、私家版はすべてTakino Tomoe、姓名の順になっています。さらに細かいところをつけば、完璧超人ちよちゃんの給食について、私家版ではhot lunch、日本の給食の雰囲気を伝えようとしていますが、しかしライセンス版ではCAFETERIAで食べていたといっています。カフェテリアですよ。日本の普通の小学校には、そんなものない! と、私家版がおおむね日本語原典に忠実であろうとしているのに対し、ライセンス版では、より広くアメリカ人に理解されるように、ダイナミックに割り切った訳があてられているのです。

忠実訳をする人たちは、日本の漫画が好きで、ひいては漫画を生んだ背景であり漫画の舞台でもある日本をより知りたいという、そういう欲求に突き動かされているのでしょう。だから、すごく訳が丁寧で、逆にいえば直訳に近く単語数も多い。説明調であったり、コマ外に註釈がつけられていたり、原典をほぼ原典のまま読みたいという気持ちがひしひしと伝わるんですね。ちよちゃんの早口言葉が苦手ですも、Bus Gas Basu Basuですからね。もちろんちゃんと註がついてて、ところが註ではGas Bus Bakuhatsu..になってる。おしい、惜しいんだけど、そういう細かいところにまで心を砕いて日本的なるものに近づきたいという熱い思い、ひしひしと伝わってくるようで、本当にやつらはNice Guyたちだと、嬉しくなってくるんですね。

ほいじゃ、ライセンス版は駄目なの? というと、もちろんそんなことはありません。こちらはやはりプロの手になるもので、簡潔にして、要点を押さえた表現などは、まさに翻訳の醍醐味であります。問題のバスガス爆発はどうなってるかというと、RUBBER BABY BUGGY BUMPERになってる。けれどこうすることで、当のアメリカ人にはずっとわかりやすくなってる。直感的に意味するところに近づくことができる。こうした工夫はあちこちに見えて、そのおかげで米語ネイティブには親しみやすいものとなったと思います。

ところで、黒沢先生のえろえろよーがどうなってるかというと、まあいいや書いちゃおう、AAH, IT'S ALL ABOUT SEX!ですよ。いやあ、これまた思い切った訳がついたものです。あんまりにストレートで、驚いてしまいましたよ。

  • Azuma, Kiyohiko. Azumanga Daioh. Vol. 1. Translated [from Japanese] by Kay Bertrand, Jack Wiedrick, Javier Lopez, Amy Forsyth, and Ai Rodriguez. Texas : A. D. Vision, 2003.
  • Azuma, Kiyohiko. Azumanga Daioh. Vol. 2. Translated [from Japanese] by Kay Bertrand, Amy Forsyth, Javier Lopez, and Ai Rodriguez. Texas : A. D. Vision, 2003.
  • Azuma, Kiyohiko. Azumanga Daioh. Vol. 3. Translated [from Japanese] by Javier Lopez, Kay Bertrand, Amy Forsyth, Brendan Frayne, and Eiko McGregor. Texas : A. D. Vision, 2004.
  • Azuma, Kiyohiko. Azumanga Daioh. Vol. 4. Translated [from Japanese] by Javier Lopez, Kay Bertrand, Amy Forsyth, Brendan Frayne, and Eiko McGregor. Texas : A. D. Vision, 2004.

共著、共訳の場合、四人以上になると代表者一人だけ書いて、残りはet al.(他)にしてしまうのが普通だけど、今回は翻訳者に敬意を表して、全員のっけてみました。

  • あずまきよひこ『あずまんが大王』第1巻 (Dengeki comics EX) 東京:メディアワークス,2000年。
  • あずまきよひこ『あずまんが大王』第2巻 (Dengeki comics EX) 東京:メディアワークス,2000年。
  • あずまきよひこ『あずまんが大王』第3巻 (Dengeki comics EX) 東京:メディアワークス,2001年。
  • あずまきよひこ『あずまんが大王』第4巻 (Dengeki comics EX) 東京:メディアワークス,2002年。

アニメ版主題歌、実は結構名曲。大好きです。

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