『まんがタイムきららフォワード』2022年9月号、発売されました。表紙は『ほうかご再テンセイ!』。メルアと詩織、学校の教室にいるふたり、こちらの世界なのに異世界での姿でもって登場。手にはオルタナフォン。これもまた放課後の情景、みたいな雰囲気あるイラストですよ。詩織のとこにメルアがやってきて、そしてふたりの視線はこちらに向いている。そこには誰がいるのだろう。机よりも低い位置から見上げる視線、ということは猫なのか犬なのか、そんな小さな誰かが画面のこちら側にいる。そんな小さな誰かに変身している、そんな読者の視点なのかも知れませんね。
今月は新規ゲストが2本です。
『宇宙の彼方に咲く花は』
遠い未来のこと、人が住むには向かなくなるまでに環境が悪化した地球から旅立つ船に乗る少女たち。
本当は地球の再生に力をそそぎたかったユジュ。かつての地球の姿を知ることが制限されているこの世界で、情報の管理をする一族の末裔であるユジュは、映像や画像に記録されたかつての地球の姿を見知っていて、それだけに地球の環境保全に対し熱意を持っていた。なのに、父の意向で惑星アキビメに向かう移民船に乗り込むことになってしまった。
ユジュよりも閲覧できる情報の多かった父が知っていたこと。娘を生き長らえさせるためには、娘から誤解を受けようともこうするしかなかったことが後に語られて、すなわちこの移民船こそは父にとって娘の将来を繋ぐ希望であったというのですね。娘が船内で見つけた、地球ではもう咲くことのできない生きた花。その花を新天地にて植え、育てるとメッセージに乗せ伝えてくれた娘に対する父の気持ち。はからずも、父娘の約束の果たされることとなる縁、それがこの漫画の物語としての核だったのですね。
しかしいずれ花とともに地球に戻るつもりであった娘と、その思いの叶わないことを知っている父との気持ちの距離。そこに、事実をあえて伏せていた父の思いの丈が隠れているのだろうな。もう存在しない希望でも、娘からその夢を奪いたくなかったのだろう、そうした気持ちの感じられるようなお話でした。
『ひなことぺろ二郎』
すげえ。いかれた世界が帰ってきた。かつて『あいらいく俳句』にてきららフォワード読者を渾沌と感動のるつぼに落とし込んだ骨抜きチキンが、原作者として帰ってきた。
それが『ひなことぺろ二郎』。最初絵柄が違うのでそれと気づかなかったのだけど、読み進めていけばそのテンションやら展開におけるノンストップ感とか、それにぺろぺろしまくるハムスターの圧やら娘の妊娠に感涙する母の圧やら即帰宅からハムスターに対する殺意丸出しにする父の圧やら、そのあたりに骨抜きチキンの風合い確かに感じられて、すごいな『あいらいく俳句』もこの絵柄だったような気がしてきた。いやもう、狂気とほのぼのの奇跡のコラボレーション、相容れぬ感情の交錯する不思議世界に圧倒されてしまいました。
しかしほんと、あの頃の勢い、そのままに帰ってきた感が強く、これからもこの勢いのまま読者を振り回しながらぶっ飛ばしていってくれるんじゃないか。そんな期待があって、第1回目にては誤解を通じて父母の33歳娘に対する望みなど読み取るとともに、娘のコンプレックスや鬱屈などもまた感じられるところ。今後の波乱の種もまた撒かれているなあ、そんな風に思われたのでした。
- 『まんがタイムきららフォワード』第16巻第9号(2022年9月号)
0 件のコメント:
コメントを投稿