2009年3月17日火曜日

電化製品に乾杯!

 産総研が人型ロボットを開発したという話で、もう巷は大騒ぎでありますが、いや実際、これがすごい。プレス・リリースをはじめて見た時は、表情に若干残る違和感に、無理して人に似せる必要はないんじゃないか、なんて思ったものですが、その後動画を見て意見が変わりました。さらに、Impress Robot Watch記事を読んで、もう、これはすごいね。かつてHONDAのP3の動歩行を目にしたとき、いつか来る未来を夢見て胸高鳴らせたものでしたが、このたびのヒューマノイド、HRP-4Cも同様に夢見させてくれるに足る素晴しい成果であると思います。

身長は158cm、体重はバッテリ込みで43kg、もう人の暮らしに入り込んできても問題ないレベルにまできていますが、まだできることは多くなく、歩く、話しかけに反応する、それくらいみたいです。けれど、動作に関しては、これからも研究開発されて、より進化していくだろうし、そうなると次は中身、ソフトウェアであるのかなあ、などと思うのも自然なところでしょう。人工知能、あきらかに知性として認められるような知能、そんなのが搭載されれば素敵だろうなあ。知能がある、知性が感じられる、確かに私と相対しているこの人は心を持っている。けれど、そうした人工の心というのは、正直無理なんじゃないかと思っていて、でもさ、心なんていう、どこに存在するんだかわからんものの存在を確かにする必要なんてないんじゃないか? とも思っています。ていうのは、こういうのは結局受け取り側の問題なんですよ。知能がある、知性が感じられる、確かに私と相対しているこの人は心を持っていると感じられればそれで充分なんです。だから、不完全な知能を持たせるくらいなら、優れた人工無脳を搭載する方がいいのではないか。足りない部分は自分でなんとか補うから、まずはそれでいいよ。なんて思っているわけです。

でも、漫画の世界では、人間顔負けの知能、知性、感情、心さえ感じさせる、そんなヒューマノイドが大活躍です。山田まりお『スタミナ天使』の緑、いやさ、エクレアに、松本蜜柑なら『イエス・マスター』のとわ、『にこプリトランス』のせす、りんす、『くろがねカチューシャ』ハナ、『のののリサイクル』ののとエミュリ。もう、いくらでも出てくる。それくらい、私たちは、人間のそばに人の姿をした、人ではない友人を求めているのですね。それは、人の存在が暖かさをともに時に寂しさすら感じさせてしまうからなのか。もしかしたら、人では埋められない隙間にこそ、彼らヒューマノイドの活躍する余地があるのかも知れません。

それに、これは実に重要なことですが、彼女らは「やっぱり友達でいましょう」とか「貧弱な坊や」とバカにしたりとかしませんもの♥。ゆえに人は、バイトはもちろん昼メシ代までうかせてつぎこんで、血の小便がでるような思いでためた軍資金を手に、女の子の代用品を求めようとするのでしょう。と、これは椎名高志の短編、『電化製品アンドロイドに乾杯!』に描かれた光景でした。

この漫画が発表されたのは平成元年。当時は夢のまた夢でしかなかったヒューマノイドが、二十年余りの年月をへて、もしかしたら手が届くのではないかと思える、そんな現実的な位置にまで近づいてきているのですから、もう驚かないではいられません。現実のヒューマノイド、サイバネティックヒューマンは、まだ人の仕事を代替できるようなレベルには達していませんが、もう何年もすれば、軽作業の手伝いくらいはできるようになるのかも知れません。実際、HRP-5は量産を目指すという話ですし(量産の暁には表情などはオミットされそうですが)、そうなれば我が家にも彼女の末裔を招き入れる日もくるかも知れません。ということは、今からおこづかいとバイトはもちろん昼メシ代、血の小便がでるような思いで小金かき集めないといけないですね。

HRP-4Cの動画を母に見せたところ、これは介護の現場にきたりするのか、などといわれまして、いや、残念ながらそこまではまだ育っていない。けど、もう少し彼女が育てば、介護の現場に彼女らが参入する日もくるのかも知れません。実際に介護をするとなれば、おそらくは彼女のようなヒューマンタイプではなく、ロボットベッドのような機能に特化したものの方が現実的な答となるのだと思いはするのですが、でもベッドから機械の手だけが出て、食事の補助をしてくれるというのも味気ないものでしょう。

以前、祖母が存命だったときのこと。祖母の入所しているホームに人形を抱いている方がいらっしゃったのですね。自分の子の幼いときを思い出していらっしゃったのか、それとも人寂しさが人に似たもの、ぬくもりを求めさせたのか、その人の中にどうした思いがあったのかはわかりませんが、そうした人を代替するものを求める心は人間に抜き難く存在していると思うのです。たいした働きはできないかも知れないけれど、そっとつきそってくれて、いやな顔ひとつせず、うんうんと話を聞いてくれて — 、そんな、心をケアする場面に彼女らがいる、そんな未来もあるかも知れません。実際、そうした局面にて活躍するロボットは存在しているのです。将来には彼女らの末裔が、労働力としてではなく、友人として、私たちのそばに寄り添っている。そんな光景があってもいいと思っています。

ところで、先程ちょっと紹介しましたロボット、パロがアザラシの姿をしているのは、人型には次のような欠点があるからだそうです。

人間は、人間のことを良くわかるため、人間型ロボットの技術が優れていても、人と同じように走ったり、 ジャンプしたり、仕事をしたり、という様々なことができることを期待します。そのため、期待から大きく外れると、がっかりしてしまいます。

けれど、仮に人が人の姿をしたものに期待してしまうのだとしても、クリアする道はあるはずなんです。それは、例えば『電化製品に乾杯!』のヒロイン、ミソッカス90Fがそうであったように、本当の安物で… 性能なんかぜんぜんよくなくて… いつもヘマばっかりしてて…一生懸命やったって… そんなプログラムがあったって… 私なんか……

そう、ここにひとつの解答がある。錯覚でも、気の迷いでも、こんなかわいくていじらしいの欲しいと思わせればいいんです。ドジでのろまな亀であっても、それでもかわいい!! そう思わせてしまうなにかがあればいい!

椎名高志は真に偉大な作家であります。

  • 椎名高志『(有)椎名百貨店』(少年サンデーコミックスワイド版) 東京:小学館,1999年。
  • 椎名高志『(有)椎名百貨店』第1巻 (少年サンデーコミックス) 東京:小学館,1991年。
  • 椎名高志『(有)椎名百貨店』第2巻 (少年サンデーコミックス) 東京:小学館,1991年。
  • 椎名高志『(有)椎名百貨店』第3巻 (少年サンデーコミックス) 東京:小学館,1994年。

引用

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