2009年3月6日金曜日

据次タカシの憂鬱

 主人公据次タカシは元ニートのアルバイター。これでは駄目だ、駄目になってしまうと一念発起して、ファミリーレストランのバイト募集に応じたのだっ! というのはちょっと嘘。もう養ってられないよと母ちゃんに愛想尽かされて、仕事を探さないではすまなくなった。しかし、なんとしてもニートの座に返り咲きたい。落ちるつもりで受けたファミレスのバイト募集にうかってしまってさあ大変。期せずして女性だらけのファミレスで働くこととなってしまった据次タカシの苦悩。あらゆることが裏目と出る、しかも誤解から評価は上がるばかり。そんなちぐはぐな据次タカシの状況が切なくも面白い。しかし、妙に据次タカシの気持ちがわかる自分というのはどうなのだろう……。なんか奴の気持ちがわからんでもない、ああ、わかる、わかるよと思いながらも笑ってしまう、『据次タカシの憂鬱』とはそうした漫画であります。

しかし、奴のなにがわかろうというのでしょう。それは、やっぱり過去の思い出よなあ。人生思うようにいかないのは当たり前。そんなことはわかってるんだけど、ただ普通に、なにごともなく、ただ静かに日々を送りたいだけだっていうのに、それがかなわない学生時代。放っといてくれ、そう思ったことは一度や二度ではないものなあ。もちろん今の据次タカシ的に放っといてくれではなくて、昔の据次タカシ的に放っといてくれです。お願いだから、構わないで欲しい。世界の片隅でひっそりとしていたいだけだというのに、なぜ不運は真ん中にではなく、そのすみっこめがけて落ちてくるの? 生きづらい少年時代でした。

据次タカシにおける、過去の嫌な出来事。そしてまんまネガティブな人生観。その説得力はいったいどうしたものか。とりあえず謝ってしまうのは、自信のなさなんだろうなあ。そしてその自信のなさは、過去のもろもろが作ったんだろうなあ。なにか幸運があっても、いや、自分に限ってそんなラッキーがあるなんてありえない、自らチャンスを駄目にするほどにネガティブ。しかしそのネガティブの権化みたいな据次タカシが、ことこの職場においては、いや職場というよりもスタッフ、とりわけ店長というべきか、まったくもって違うのです。やること、ことごとくが裏目に出ることにはかわりないのだけれども、裏目に出てかつそれで上昇基調。しかし普通なら、特に上昇志向が強い人、場の中心にいたいと思う人ならなおさら、そうしたことごとはラッキーであるはず。でも、上昇志向に欠け、中心になんて出たくもない、そんな据次タカシには不運でしかないという、そのギャップが面白さなのでしょう。

けれど、思いがけない行動、それも本来なら好ましくない行動、逃避みたいなことね、そうしたことが結果的に状況を好転させ、しかも体を張ってやりました、みたいになって、男を上げて、みたいな漫画はわりとあります。それって、間が悪い人にとっての理想、憧れのシチュエーションなんだろうか、などと思うことはあるけれど、こと据次タカシに関してはあんまりうらやましくはないかなって思う。だって、結構いいシチュエーションに置かれてるといえばそうかも知れないけれど、ハーレムに見えてハーレムでないし、結果的にでもいい目を見てるってことがそもそもないし。それに普通この手の漫画だったら、なんのかんのいってメインヒロインといい雰囲気に、なんて方向に向かったりしそうなものなのに、もしかしてこの漫画に関しては、それはない? それらしい雰囲気は出ても、それは思い違いなのではないか? そう思わせる条件が設定中に用意されているという不運。でも、そうした不運、微妙に報われないというところも含めて、この漫画の面白さなのだと思っています。

ですが、据次タカシ、あの店で五年も勤め上げたら、一人前になれそうな気がします。そうした更生、というか成長か、伸びる可能性も感じさせないではない。そんなところもあるから、不運設定を受け入れられるんじゃないかなとも思って、そもそも有名進学校に通っていたってところからもポテンシャルはありそうな人です。でもきっと勉強ぐらいでしか逆転の目がないと思っていたところに挫折が重なって、それで完全に頑張る気力を失ってしまったんだろうなあ。こんな人って現実にも多いような気がします。だからこそ、据次タカシには頑張って欲しい。なんてむやみやたらと期待する人がいるから、結果的に彼を追い詰めてしまう。世の中とは、実に難しいものでありますな。

  • あどべんちゃら『据次タカシの憂鬱』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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