『くろがねカチューシャ』は第2巻でめでたく完結しまして、しかし早かったなあ、それがまず第一の印象でした。別に終わりに向かいそうな気配なんてなかった、そう思っていたのに、いきなりどんと最終回がやってきて、え、あれ? 終わるの? そんなこと思ったのも懐かしい。けど、終わってから振り返ってみれば、最後に向けての数回は、まるでイベントを次々とこなしていくかの勢いで、昇進試験、メイドロボハナの実際、そしてトキの仕事観が描かれ、その勢いを保ったままで最終回へと雪崩れこんでるんですね。これは、2巻で完結と決定したからなのか。もし続いていたら、もう少しスローペースで、そのへんの必須エピソードが展開されていたのか。どうだかはわかりませんが、もう少し長く楽しんだほうがよかったか、あるいはこの畳みかける勢いに身をまかせて読むほうがよかったか、一概にどちらがいいかはわからない。てのは、きっと私は、そのどちらであったとしても、楽しく読んだろうな、そう思うからなのですね。
その楽しさの根っこには、前にもいってましたけれど、この作者のらしさ、定番展開を期待させる、そんな流れを作っておいて、ページをめくった先で見事に裏切ってみせる、そのやりかたがうまいからだと思っています。ページをめくった先、それは四コマ漫画でいうところの四コマ目に似ている、そのようにも感じられて、ただ決定的に違うのが、めくらないとわからないというところ。昔読んだ漫画の技法だかなんだか扱ってた本には、ページをめくったところに見せ場を持ってこいみたいなこと書いてありましたが、この人の本はその見本みたい。ページをめくるその直前までに、次を期待させる、そんな流れをきっちり用意して、ドンと落ちを付ける。そして、次へ繋げ、また落とす。アップダウンが明瞭で、わかりやすく、面白く、テンポがいいから読みやすい。だから、楽しい。ということなのだと思うのです。
そうした、直前の流れでひきつけて、落とす。そのパターンは、なにも状況をひっくり返す、そうしたギャグ方面に向かうばかりではなかったのですね。ひっくり返すどころか、真っ向から受けてみせる、そんな流れもあります。見事に期待どおりの展開、そこには決めとなる絵がドンと置かれて、一瞬時間がとまる。そして気持ちのなかに、じわっと感情が広がるんですね。うまいなあ。あるいは、これまでに学習してきたバイオレンスに繋がるだろう流れ、それを裏切る展開、これにもすっかりやられましたね。けど、それが二段でひっくり返されて、もう一度やられる羽目になるんですけどね……。
読んでみての感想は、多分、この作者は真面目な人なんだろうなあ、そんな感じ。漫画の構成に真面目で、読者を楽しませることに真面目で、そして真面目であるからこそ自分の真面目さを表立っては出せない。ちょっとテレ隠し? そんな風に感じるなにかもあって、そうしたところは結構好きでした。だから、もうちょっと続いてもよかったのに。あの恒例の嘘予告、あれが実現するなら、きっと楽しみにして読んだろう。まあ、あの予告どおりにはならんでしょうが、続いたなら続いたで、私にはよかった。そんな風にも思うんですね。でも、ここはきれいに終わってみせて、ちょっとさみしくはあるけれど、こうして完結したことを今は喜びたいと思います。
- 吉谷やしよ『くろがねカチューシャ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- 吉谷やしよ『くろがねカチューシャ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。
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