2009年2月1日日曜日

0からはじめましょう!

 0からはじめましょう!』がはじまったとき、こんな風に話が進むだなんて思ってもいませんでした。事故にあった、それをきっかけに魂が抜け出てしまった少女、東屋ことりをヒロインとする生霊コメディ。片思いしていた相手のうちに転がりこんで、ばたばたとしながらもどこか楽しい幽霊ライフ(?)。そんな明るくさっぱりとした雰囲気が持ち味の漫画であるのですが、しかしラストに向けて話が動き出してからは素晴しかったの一言です。本来の持ち味は健在、湿っぽさに傾くことはまったくなしに、霊のままでいるということがどういうことか、きれいに描き出して、それは心の奥に届く、そんな深ささえ感じさせました。霊のままでいるということ、その意味は、反転してすなわち生きるということに直結して、本当にこんな方向に向かうだなんて予想もしていませんでした。予想もしていなかっただけに、心理テストの回、突然の反転にドキリとしました。

今年の頭、ちょうど先月になりますか、『ベルリン・天使の詩』を取り上げて、生きるということの意味、その真実味が深くよく表されている映画であるといっていました。より完全であろうはずの天使が、所詮有限に過ぎない人の生に憧れを持つ。そうした映画であるのですが、その時に語られていたこと、人生の瀬に降り、今、まさに生きているという実感をその身にうけることの素晴しさ — 。

『0からはじめましょう!』、心理テストの回、私がドキリとしたのは、いきなりのシリアスさ、それだけではなく、ことりに対してなされた問いかけ、その意味するところがすっと飲み込めたからであったのだろうと思います。それは問いに過ぎず、ことりの答えは描かれなかった。けれどこの漫画を読んできた人間には、容易にその意味するところはわかったはず。それは、ただことりの気持ちが伝わったというだけではなく、生きるということがどれほどに素晴しいことであるか。そうした根源に触れる深いメッセージがあったと思っています。

ああ、生きるということ。表立って、そうしたことをいいたてるような漫画ではありませんでした。けれど、確かな手応えの残る、そんなラストが心地よく、そして感動的でした。その感動とは、押し付けやなんかとは無縁の、しみじみと湧き上がるようなもの。今、こうして命があって、なにかを感じとっているというそのことが、すなわち生きるということであるのだと思わせる、そうした素敵な読後感が嬉しかった。生きるということは、嬉しく思う気持ち、楽しく思う気持ち、今まさに感じとっているそれを積み重ねていくという営為なのですね。確かに、嬉しいばかりじゃない。楽しくないこと、辛いこと、いやなこともあるのが人生だけど、そうしたことごとにおびえるばかりでは、人生の喜びにもまた出会うことはできない。だから、乗り越えてごらんよ。世界は、人生は、君のその頑張りに応えてくれるに違いないよ。そう、ささやかれたような気持ちがします。

『0からはじめましょう!』はわずか2巻。ちいさな物語ではありましたが、しかし傑作であったなあ、そう思っています。基本はコメディタッチ、あくまでも面白さ、楽しさが信条、そうした漫画でありますが、面白さの中に真実がある。それはさりげなく、けれどしんしんと身に染みて、素晴しかった。そうした思いは、この漫画に出てくる人たち、彼らがさっぱりとして気持ちのいい、愛すべき人であったから。身近に感じ、親身に思いもする、そんな人たちの気持ちが伝わるようであったからであろうかと思います。そして、そうした感情もまた、物語を追うなかで積み上げられていった、そのようなものであるのでしょうね。

しかし、いい話でした。まとめ方もうまかった、特に、最後の最後、ご都合主義となりかねないところを見事に乗り越えた、あの展開は見事です。そして、単行本描き下ろし、最後のメッセージ、よかった。むしろこちらこそ、お礼をいいたい。そんな気持ちにさえなったのは、この作者の人柄、優しさなのか真摯さなのか、その気持ちのよさのためであろうと思います。ええ、いい漫画でした。読めて本当によかった。ありがとうございました。私はあなたの漫画が大好きです。

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