2009年9月16日水曜日

リトル・リトル

 かつて私の愛した雑誌、『コミックエール!』に掲載されていた『ク・リトル・リトル』。ごめん、間違えた。『リトル・リトル』。メイドとともに暮らしている令嬢と、きつねの耳としっぽを生やしたおちびさんが交流するというお話。私はこれが好きで、なにがいいといっても、まずは絵の魅力でしょう。キャラクターは可愛く、描かれる世界も美しい。ぱっと目を引く、そんなよさを持っていて、そして台詞を使わないという、サイレント志向の表現が光っていました。繊細で美しい絵が物語をつむいで、言葉に頼らずとも、こうした世界は描けるのだ。そうしたところもまたよかったのですね。その『リトル・リトル』が、描き下ろしでエピソードをふたつ追加して単行本になりました。

絵が伝える物語。伝えるものは、ストーリー、筋立てだけではありません。登場人物の感情、思いをよく描いて、伝えてくる。寂しさ、切なさ、もどかしさ。そうした思いが寄せてきます。そして、楽しさ、嬉しさ、喜び、そうした気持ちも豊かにあふれて、その充実した感覚が心地よいと感じられて、ええ、寒い夜に暖かいものに触れたときのような心地よさ、ほっとしたような気持ち、安心感に満たされるようです。

それは、狐耳の女の子、ええと、名前はわからないんですが、この子の愛らしさがあるのだろうと思います。ヒロインのお嬢さんにひっそりと寄り添って、寂しくならないように、つらさ悲しさが消えるように、いろいろと頑張ってくれる。なんでこの子が、こうして気を配ってくれるのかわからない。別に得もないのに。でも、損得とかではないのだろうな、ただただこのお嬢さんのことが好きだから、いろいろ骨折ってくれるんだろうな。そうした様がほのぼのと暖かみを伝えてくれるのですね。また、お嬢さんも狐の子に対してよく応えてくれる。その相互にひきあっているところ。思いの通じているところ。すごくいいなと思って、そしてこうしたことはメイドのお姉さんにもいえるように思います。皆がお嬢さんに対して親身で、それは仕事だからなにか貰えるからではなく、大切な人が少しでもしあわせであって欲しいと願う、そんな思いが感じとれるようで、しんみりと心に愛情の沁みるがようなのですね。

単行本での描き下ろし、それをもって、この小さな美しい物語は終わりを迎え、それはとても幸いなものでありました。しかし、まさかこのサイレント表現にこれだけの意味があったとは。ああ、その理由はここには書きません。印象的なシーン。そして、結末へ。すごく素敵であったと思います。すべては語られなかった物語。だから、読むものひとりひとりの想像力を掻き立てる、そんなところもあって、ああだったのだろうか、それともこういうことだったのだろうか。わくわくと心が動くのですが、けれど言葉足らずだったなんて思いはひと雫もないのですね。とてもよい漫画。この漫画を読めた、この漫画に出会えたというだけでも、『コミックエール!』は価値があった。そう思わせるほどに好きな漫画です。

  • ろくこ『リトル・リトル』(まんがタイムKRコミックス エールシリーズ) 東京:芳文社,2009年。

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