2008年11月18日火曜日

こうかふこうか

  ちょいと人を避けようと、いつもは寄らない書店に入ってみたら、『こうかふこうか』の2巻が平積みされていたのでありました。『こうかふこうか』は、とにかく不幸に見舞われるOL福沢幸花がヒロインの四コマ漫画で、それは確かに面白いんだけど、読んでいると幸花のあまりの不運さになんともいいようのない複雑な気持ちがたまってきて、哀れというか、切ないというか、なんとなく釈然としない、そうした気持ちといってもいいのではないかと思います。それは特に2巻で強く感じて、けれどなぜだったのだろう。仕事帰りの車内、読み切れずかばんにしまって、私はいったいなぜ幸花の境遇にこうも引っかかっているのだろう、そんなことを思ったのでした。

幸花の境遇は、時に人の悪意を受けることはあるけれど、基本的に誰に嫌われるでもなければ、疎んじられるわけでもない、そんな平凡なものに見えるのに、しかし持って生まれた凶運か、とにかく裏目裏目がでてしまうという、そんな娘です。でも、作者は佐藤両々。佐藤両々といえば、ひどい目に遭わされる男の事例には事欠きません。それは例えばゲボキューで、そして日生弟。お姉さま的上司にひどい目に遭わされるゲボキューは、それはそれで楽しそうだからいいとしても、血を分けたお姉さまに本当の本当にひどい目に遭わされる日生弟は、まああれはあれで楽しそうだからいいか。って、なぜ幸花だったらつらくって、ゲボキュー、弟だったらまあいいかなんだろう。この自分の中に存在するダブルスタンダードについて、はたと考え込んだのですね。

そういえば、プレイするのがつらいといっていた『脅迫』ですが、これもしプレイヤーキャラが男だったらノープロブレムだよなあ、なんて思っていたのでした。弱みを握られて、性的な行為を強要されるわけです、男が。このシチュエーションで相手が女であるわけないですよね。当然男。男が男を脅迫し関係を迫る。そうしたシーンを想像した時、正直いけるなと思った。ヒロインだったら受け付けなかったシナリオが、ボブゲーとして再構築されると、充分受け入れ可能になるという事実に気付いた時、私の中に二重の基準が存在するとはっきりしてしまったのですね。

しかし、これいったいなんなんだろう。

やっぱり、女の子が不幸になるのが耐えられないのかなあ。男だったら、そのシチュエーションにむしろ萌えるというのに!? あまりの違いに自分がびっくりですが、男女同権主義者を標榜している自分が実は女の子に甘かったとか! これは、これは考えをあらためんといけません。女子にも、女子にも厳しくいかないと!

以上は冗談ですが、少なくとも私が『こうかふこうか』のヒロインの境遇に、なにかつらさを感じたのは事実なんですね。間が悪いわけじゃなくて、無神経無思慮無反省の三無主義みたいな男、岩井の物損系ネタの被害を幸花が被る時、さらには岩井の口から福沢の所為で怒られた…などという言葉が聞かれよう時などは、そりゃないよ……、って気分になって、ちょっとやりきれない思いになって、もちろんそうした彼の態度やもろもろは作中で突っ込まれるし、批判もされるのだけど、それでもそりゃないよ……、って思う気持ちは止められなかったのでした。

けれど、帰りの電車で読んだ時は少々つらくも感じたこの漫画、風呂から上がって、布団に入って、そうして続きを読んだら自然と笑みもこぼれて、なんだろう、この感触の違いは。それは緊張状態にあった時 — 、仕事という多少なりともストレスのある環境から完全に切り離されていなかった時と、自室という安心できる場所にいるという状況の違いのためであったのかも知れません。私のぴりぴりとしながら読んだのは、私の心に余裕がなかった、かたく閉じていたためだったのかも知れない。私の気持ちが緩んでさえいれば、もっと鷹揚に構えて、楽しく読める漫画であるのだろう。読み手である私の心次第ということなのだと思いました。

そして、もう一点、大きな状況の変化が作中にもたらされて、それは岩井の真実を見た時、私は目を閉じ深く息をして、なんだか許せる気持ちになったのでした、読者として。

彼の、自分の気持ちをただ伝えたかったというそれは、あるいは無思慮で無遠慮であったのかも知れないけれど、しかしなによりも直接的で、そしてそのまっすぐであった彼は、幸花の仕合わせな状況を大切に思うため、おそらくは彼の最大級の配慮をするんですね。そのちょっといたずらっぽく笑って、きっとなんらかの感慨もあっただろうのに、それをおくびにも出さずにすませてしまった姿は、ちょっとかっこいいなと思った。なんだ、いい男じゃんか。涙でかすんだ目の中に私は、今までで一番立派な岩井の姿を刻み込もうとしていた、読者として。

だから私は、この第2巻を不安をともに開いた気持ちを、第3巻にまで持ち越すことは決してないだろうと、そのように予測しています。

  • 佐藤両々『こうかふこうか』第1巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2008年。
  • 佐藤両々『こうかふこうか』第2巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2008年。
  • 以下続刊

引用

0 件のコメント: