2008年11月1日土曜日

となりのだんな様

 私は野々原ちきのファンなので、新刊が出たら当然買うのであります。というわけで、『となりのだんな様』が発売されました。レーベルは電撃コミックス、連載は『電撃大王』。残念ながら連載を読んだことがなく、つまりこの単行本が初見であります。そして、読んでどうだったのか。ええ、面白かったです。最初、読み始めの頃は、親同士の取り決めで許婚になったという小学生男子、青葉龍之介の生意気さ加減に、まいったな、大丈夫かなと心配になったのですが、なになに、episode. 2のラストページで陥落ですよ。いやあ、龍之介くん、可愛いよ。気っ風のいいお姉さんにめろめろの龍之介くんを愛でる漫画かと、危うく勘違いしてしまうほどでありました。

いや、あながち勘違いでもないと思うのですが、ええと、登場人物を整理しますと、中学時代は荒んでいたヒロイン城之内ヒメは、高校入学を機にその業界(?)からすっぱり足を洗って、ちょっと粗雑だけど可愛いお嬢さんになりました。そんなヒメにべったりなのは、お隣に住む龍之介。小学生ながらできのいい、利発な坊ちゃんで、そして龍之介を思うあまりヒメになにかと突っかかってくる小学生女子泉清香が加わって、これでほぼ全員かな? ヒメのクラスメイトとかもいますが、まあこれだけ把握してれば大丈夫。主要登場人物三名という、とてもミニマルな人間関係の中で繰り広げられる、どこかぎこちないプレ恋愛ストーリー。これが、ほほ笑ましくて可愛くって楽しかった。この中で一番年長であるヒメの妙な純情っぷりも含めて、本当にほほ笑ましい漫画でありました。

しかし、野々原ちきという人は、生意気だけどそこが可愛いキャラクターを描かせればうまいなあ。この漫画を見て、あらためてそう思いましたよ。この人の漫画には、腹黒でこじんまりしたキャラクターが出てくることが多く、小学生なんだけど大人顔負けとかですね、そういうキャラクターの魅力といいますかなんといいますか、最初はどうだろうと思っても、だんだんよくなっていくその引き込まれ感がよいのです。この漫画でも、龍之介にはepisode. 2で陥落、清香にしても登場回のそれとも妄想癖ですか?で打ち負けたかと思ったら、そんなことより助けて下さい!!で駄目押し。なんていうんでしょう、いくら彼らが大人顔負け、生意気だといっても、どこかに子供らしさというか、甘えたり頼ったり、そういうところを残しているから、うわー、もう可愛すぎ。下がる目じりがえびす顔、てなもんですよ。確かに彼らは恐るべき子供たちであるけれど、ちょっとずつ残されたいたいけさ、その配合の度合いがほんともう素晴らしいなと。ヒロインを振り回す側であるのに、変に入れ込んでしまう、そんな魅力がたまりません。

でも、やっぱりこうした気持ちの起こりは、ヒロインあってのものなのかとも思うのですね。ヒロインは中学時代、町内最強と怖れられた、そんなお嬢さんなのですが、それが清純派のふりをしている。いや、ふりというか実際のところ純情派であると思うのですが、ちょっとしたことに心を動かされるというか、一喜一憂するというか、素直さはなかなかのものでありますし、それになんだかすごくいい人そうです。悪ぶっても、どこかしら悪くなり切れないという感じ。そんな人が、なおさらいい人ぶろうというんですから、そのいじらしさったら、下がる目じりがえびす顔、 — はもういいですか、とにかく可愛いんですね。

可愛い人に可愛い人が懐いている。これでいったい魅力的にならないなんてことがありましょうか。いや、本当にいい。しかも、ヒメのキャラクターの、素朴で素直な可愛さを保持しながらも、基本的にはさばさばとしてべたつかない、そんな気風がある人だから、もう素晴らしい。龍之介に振り回される、その時々に女の子らしさを感じさせながらも、変な女臭さは振り撒かない。必要以上にべたつくことのない恋愛コメディは、楽しく、面白く、時に心にしんみりとした跡を残して、素敵でした。深く踏み込まないもどかしさも、素直になれない不器用さも、そしてそうした恋愛前段階の気恥ずかしさも、どれもがじんわりと胸に染みてよかった。一巻ものというのが惜しいな、もっと彼らの関係を見守っていたかったな、そんな感覚さえ覚えるほどでした。

  • 野々原ちき『となりのだんな様』(電撃コミックスEX) 東京:アスキー・メディアワークス,2008年。

引用

  • 野々原ちき『となりのだんな様』(東京:アスキー・メディアワークス,2008年),35頁。
  • 同前,50頁。
  • 荒木良治『

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