2008年11月29日土曜日

うらバン! 浦和泉高等学校吹奏楽部

 音大を舞台にした漫画が大ヒット、ドラマになったりして、また漫画で使われた曲、もちろんクラシックなんですが、のCDが馬鹿売れ、演奏会に訪れるお客も増えたとかで、オーケストラが一息ついているなどという話です。さて、そうしたもろもろの動きは私にはまったく関係ない、そう思っていたのですが、いやあ、まさか音楽四コマが増えるというかたちで関わってくるだなんて予想もしませんでした。本当は関係ないのかも知れませんけどね、でもほぼ同時期に三本かな? 連載が始まりまして、ひとつはお嬢大にてピアノを学ぶヒロインのバンドもの、あとふたつが吹奏楽もの。『うらバン!』は、その吹奏楽もののうちのひとつでありまして、こちらは『まんがタイムきららキャラット』掲載作。女の子のビジュアル的可愛さを前面に押し出しつつ、ナンセンスな吹奏楽コメディを繰り広げてくれて、最初のうちは微妙かななんて思ってたのだけど、じわじわと面白さが増してきて、今ではすっかりお気に入りの漫画になっています。

私は中学高校と吹奏楽部に所属していて、パートはサクソフォンであったのですが、それが高じて音楽の道に進み、今ではギターを弾いています。サックスは十年近く吹いてないので、きっともうまともに音出せなくなってるだろうなと思うのですが、こうした吹奏楽漫画を読むと、楽しそうだなあ、って思えてきて、なんだかまたやりたくなります。

『うらバン!』、浦和泉高等学校吹奏楽部は総部員数4名の、ミニマルな編成でがんばっています。って、普通ここまで減ると部として認められないんじゃないの!? っていう無粋なつっこみは置いておいて、実は私の母校の吹奏楽部がこんな状況だったんですよね。私らの年代では、吹奏楽コンクールは大編成の部にエントリーしていたのが、次第に人数が減っていって、小編成の部どころか、アンサンブルがやっとというような状況になったとか。今、子供が減ってますからね。また、吹奏楽部ってうざそうでしょう。団体行動とか、チームワークとか、連帯責任とか、早朝練習とか、居残り練習とか、上下関係とか。いや、本当にうざい。私がサックスを廃業したのは、こうした関係に疲れたからなんですよ。とかいう話はどうでもいいんだ。

部活動自体が敬遠されるような時代に、吹奏楽部がはやらないのはある意味当然のように思います。だから、部員数4人の吹奏楽部というのも、結構リアルな感じがしまして、しかし編成がフルート、チューバ、トランペット、パーカッションというのはなかなかにすごい。アンサンブルも組めないじゃないか。でも、それでもこの子らの活動している様は楽しそうで、やっぱり部活なんてのは楽しいのが一番だなあ。もちろん部活でも目標があって、その目標が高かったりすると、それなりの厳しさも必要になってくるんだけれど、その厳しさを乗り越えようという気持ちの中に、楽しさや面白さというのは不可欠だろうなって思うのですね。だから、今は部室に集まってわいわいと騒いでいるのが楽しいみたいな一年生も、音楽に取り組むことでその面白さを知り、厳しさにチャレンジしていこうみたいになっていくのかなって。いや、『うらバン!』は基本的にナンセンス色の強いギャグコメディですから、求める方向が違ってるかなとは自分でも思っているんです。でも、コメディの中に、ぽろりとリアルな感情、心の動きが感じられることがあるんです。それは気付き、発見であり、憧れであり、そして参加したいという気持ちなんだと思う。それはきっと昔の私も持っていたもので、懐かしさをともに読む、なんてったらいいんだろう、彼女らを自分の後進のように感じてしまっている、そういうところがあるみたいなのです。

『うらバン!』はナンセンスでコメディ、さっきから何度もいっていますが、だから、そんなのありっこないから! っていう無茶なこと、鼻でフルート吹いたりですね、そういう描写も出てくるんですけど、でも取材がちゃんとなされているのか、作者が吹奏楽経験者なのか、押さえるところは押さえている感じで、好感が持てます。例えば、外から見てるだけではアンブシュアなんていう専門用語はちょっと出ないだろうし、吹奏楽界隈ではなぜかドイツ音名が幅を利かしているとかですね、そういうのも気付かないだろうし、さらに、これは1巻の話じゃないんですけど、ミュージックエイトとか出てくると、これはさすがに経験者だろ! って思うわけです。こういう、経験者には懐かしく、ああ、あったあった、とうなづくことのできるネタの数々、多分吹奏楽に関わったことのない人にはちっとも通じないとは思いますけど、でもディテールがしっかりしているっていうことは、その描かれる世界のベースがしっかりとしているっていうことだろうと思うのです。漫画だから、現実にはあり得ないこと、ありにくいことも描かれます。けど、その下地にしっかりしたものがあれば、きっとちょっとやそっとではぐらつかない。ぐらつかないから、アクロバティックも可能になるのだと思うのですね。

さて、私がこの漫画を読んでいて、嬉しかったのは幽霊顧問の登場ですね。彼女はなんとサクソフォニスト。やったあ! 自分のやってた楽器が出てくるってのは、それだけで単純に嬉しいものですよ。いやあ、ソプラノサックス、私も吹きましたけど、欲しいなあ。きっと吹く余裕はないから買わないけど。あれ、いい音するんですよ。ってのは置いておいても、あの先生がサックス吹きっていうのは納得だ。いやね、楽器が人を選ぶのか、それとも楽器が人をつくるのか、楽器によって面白いように性格が決まってくるなんて話がまことしやかに語られていましてね(興味のある人は『オーケストラ楽器別人間学』あたりを読んでね)、サクソフォン奏者はおおむね一匹狼的自由人だったりするなんていう話があるんです。ほんとかよ、って思いますが、私の読んだ本(『レッツ・ゴー・ブラス・バンド』だと思うんだけど、本が見つからなくて確認できない)ではそんなことが書かれてて、胡散臭いけど、確かにそういう傾向はあるみたい。で、幽霊顧問、黒目つつじもそんな人で、実にいい感じじゃないか! 気に入ってるのであります。

あ、余談なんだけど、黒目先生の車、Fiat 500、作中では盛んにルパン車だといわれてましたが、私の中ではあれはエンゾ車であります。って、ほんとに余談だな。そういや、大学のサックスの先生はミニに乗ってらっしゃいました。こういう趣味性の高い車を選んでしまうあたり、実にサクソフォニストであるって感じがするんですね。

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