2008年2月12日火曜日

のの美捜査中!

  重野なおきは私のひいきにしている四コマ作家であります。その重野なおきが数年にわたり展開してきた警察コメディ『のの美捜査中!』がめでたく完結いたしました。確か私の記憶が確かなら、『ヤングアニマル』誌に短期で連載された後、一定の支持があったのでしょうね、長期連載にシフトしたのでしたっけ。エリートでありながら、ポカミス連発で降格してきたのの美を主人公に据えた、ちょい推理あり、ちょいギャグありのコメディ。非常に冴えた天才少女でありながら、鈍くさく、どこか抜けているというヒロインの性格のためでしょうか、肩ひじ張らず楽しめる、そんな雰囲気が楽しい漫画でありました。

けれど、この漫画、初期と後期でずいぶん雰囲気が違っています。初期には推理ものとしての性格が強めに付与されていて、毎回ひとつの事件を扱い、そしてそこにはトリックが用意されている。それをのの美が解き明かすという趣向であったのですが、まあもちろん本格推理なんていうのを期待しちゃいけません。軽い推理コメディといったところでしょう。のの美の所属する組織、警察ですけど、これに関してもなんだか楽しそうな、面白そうな、そんなのになっていますから、やっぱり警察コメディ。推理小説や探偵小説に出てきそうな趣向をうまくピックアップして、四コマ仕立てにしてみました。そういうタイプの、おかしみを楽しむための漫画であったのですね。

ところが、なんだか途中からラブコメ色が強くなってきましてね、のの美の相棒である真田軍平、微妙な距離で引きあうもどかしさが表現されるようになってきて、中盤から後半にかけては、むしろこうした恋愛模様が中心になってきたように思います。警察さらには探偵や怪盗も含めた多様な登場人物、彼らのうちにもカップルが生まれたり、あるいは振られ続けるやつがいたり、やっぱりこのあたりはキャラクター主導の四コマだなと感じさせてくれます。

けどそれも楽しいものだ、そう感じられるのは、やっぱりそこに重野なおきの味、得意があるからだろうと思います。この人、『ひまじん』みたいなおそろしくミニマムよりの漫画を描いたりもしていますが、基本的には大人数でわいわいやるのが楽しいタイプの漫画家だと思うのです。たとえば『うちの大家族』、そして『Good Morning ティーチャー』。『のの美捜査中!』ののりはといえば『Good Morning ティーチャー』に近いように思いますが、それでもやっぱりどれとも違った独特の位置に着けている、そういう風に思います。『Good Morning ティーチャー』においても恋愛要素は多く出てくるけれど、やっぱりこちらは青春時代のそれという感じが強く、対して『のの美捜査中!』では、恋愛がメインとなっても、そればっかりにはならない感じ。指向性は強くあっても、驀進するような勢いはありませんでした。あるいはそれは、のの美にしても軍平にしても、もう両方気持ちは決まってる、読んでるこっちはすっかりわかってるんだから、後はいつどうくっつくかだけってな、いわばタイミングをはかりつつの不器用恋愛劇が見物であったのでしょう。

かくして、恋愛あり、練馬の存亡を賭けた決死の活躍ありの最終巻、ちょっと大げさすぎる舞台を用意して、けれどそれがどうにもこうにもしょぼさを残している、これもまた重野なおきの味であるなあ、そう思いつつ、きっちり大団円にもっていく生真面目さもこの人の味であったと思います。ええ、描かれるべきことは描きました、しっかりと仕事をこなしたうえで遊びもそこかしこに感じさせる、そんな作風は『のの美捜査中!』にも健在でありました。

  • 重野なおき『のの美捜査中!』第1巻 (ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2004年。
  • 重野なおき『のの美捜査中!』第2巻 (ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2005年。
  • 重野なおき『のの美捜査中!』第3巻 (ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2006年。
  • 重野なおき『のの美捜査中!』第4巻 (ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2007年。
  • 重野なおき『のの美捜査中!』第5巻 (ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2008年。

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