2008年2月7日木曜日

先生はお兄ちゃん。

 私の昔の友人に、妹ものが好きなのがひとりおりました。その人には妹が12人あったりしてそれはそれは大変だったのですが、ええと、確か実妹がひとりあったのでしたっけ。それで私は聞いたのでした。実際に妹がいたりしたら、こうした妹ものって微妙だったりしない? 返事は実に振るっていました。理想の妹を探しているんだよ — 。思わず涙を拭いましたね。

それはさておき、『先生はお兄ちゃん。』の単行本が出ましたよ。いやあ、早かったなあ。伸び方やプッシュされ具合から見て、いずれ出るとは思っていましたが、これほど早いとは、予想外というか、実は期待していたというか。実際、この漫画、結構ホットなタイトルであると思っているものですから、時期過たず打って出たなあ、うんうんうなずいております。

『先生はお兄ちゃん。』、タイトルにもありますように、お兄ちゃんが先生です。主人公は妹、桜木まゆ、女子高生、美少女、身長148……、約150cm。普段は寡黙にしてクール、慌てたり騒いだりなどとは無縁といった雰囲気を持った妹がですよ、こと兄のこととなると豹変してしまうのですよ。この変わりようこそがこの漫画の売りであります、あるのですが — 、うん、実にバイオレンス。兄を殴る、殴る、殴る、罵倒する。もう、変態呼ばわりでありますからね。しかしこれは妹にも言い分があるでしょう。というのも兄は極度のシスコンで、妹可愛さに人の道踏み外してしまうんじゃないか、心配してしまうほどである、そんな兄なのですね。

けど、そんな妹がまた可愛いというのはどうしたものでしょうか。兄に暴言吐き暴力ふるう、冷静に考えればどうしようもない、それこそ桜木兄は理想の妹を求めて別次元に旅立ってもよさそうなくらいだというのに、それをしない。まゆを愛で続ける。それが妹に邪険にされる理由であることを知りながらやめない。もしや、兄は妹にひどい目に遭わされたいのか!? けれど、兄の気持ちもわかるような気がするんですよ。いや、ひどい目に遭わされたいってとこじゃないです。妹を愛でるってところ。なんのかんのいって、まゆには可愛げがある。可愛い絵柄、デフォルメされているために余計そう感じるのかも知れませんが、嫌がるそぶり、怒りの表情でさえ可愛い。それになにより、まゆからは酷薄さが感じられません。そうですね、嫌悪や冷笑が現実的に描かれることがありません。それが表現をマイルドにして、妹のバイオレンスを受け入れやすいものにしているのかと思います。

そして、妹にはもうひとつの特徴が! 普段はクール、これはもうすでにいいました。けれどそれはふりに過ぎず、可愛いものを前にすれば一気に本性あらわになって、ぞんざいでぶっきらぼうなしゃべり口はそのままに饒舌さを発揮、まくし立てんかの勢いでそのものがいかに可愛いか力説するのですよ。おお、こういうのは見たことがある。ほら、おたくの人が自分の好きなものについて話しだしたらとまらなくなるでしょう。話すことがまた気持ちを盛り上げて、興奮が止まらないって感じになる、まゆにしてもそうなんですね。ああ、可愛いなあ。あ、私、好きなもの前にして、とまらなくなってる女子を見るのが好きなんです。ああいうのって心温まりますよね。だから、自然まゆに対しても可愛いなあという気持ち強くなって、ええ、私も一種の変態です。

連載開始当初は変態性の強く感じられた兄ですが、その後同僚の養護教諭神奈月子との関係(どういう関係だか、よくわからんのですが)が描かれることで、徐々に変態性は薄まって、いや妹に関しては相変わらずなんですが、いったん妹を離れると普通の人なんだなあ、多分。そんな風に思えるくらいになってきます。異常な妹好きが知れ渡っている兄、受け持っているクラスの面々もどうしようもない兄貴だなあとあきれながら、けれど不思議とあたたかい。人望あるんだなあ、兄貴。人としてはあれだけど。

こんな具合に、暴力的だったり、変態だったり、好きなもの見るとブレーキ壊れたりする人が中心人物であるのだけれど、それら個性、というか普通なら欠点ですか、こうした要素が面白く、愛せるものになっているというところに、この漫画の個性が極まっているのだと思います。期待されるパターン、望まれる展開が繰り返されるそこに、少しずつキャラクターの個性が広がるから、ワンパターンがワンパターンでなくなってくるんです。見慣れたと思った景色の向こうに、読み取ってしまうなにか、関係や背景といったもろもろがあるのですね。それは、ただ私がそう思いたいというだけ、妄想の産物であるのかも知れないけれど、そうした余地が残されているというのもまた事実。そしてこの余地は、作者によって少しずつ埋められながらも、なお広がっていくものであるのかも知れません。広がるなら、きっと漫画の面白さもともに広がるのだろうな、そんな風に思って、なんとなく期待してしまう。そしてそれは、私がそれだけ引き込まれているということなのでしょうね。

  • テンヤ『先生はお兄ちゃん。』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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