2007年10月21日日曜日

おつきさまのかえりみち

 表紙で買ったシリーズはやらないみたいなことをいってましたが、なんでかそっち方面のスイッチが入ってしまったようで、そう、本日取り上げるのも、表紙買いタイトルです。三浦靖冬の『おつきさまのかえりみち』。残念ながらAmazonに画像が用意されてなかったので、実際にどんな表紙であったかお伝えすることはできませんが、ちょっとサイバーパンク風、 — いや違うなあ。不透明水彩で色付けされたっぽい少し濁って重めの表紙は、レトロさと温かみにあふれていて、実際の話、すごく素敵なイラストレーションに仕上がっています。遠景にはどこか懐かしさを感じさせる町並みが広がり、近くには昭和中期を彷彿とさせるディテールに彩られたガジェットが。金魚が宙を泳ぎ、生身もあればブリキのおもちゃ思わせる外観のものもあって、そしてその中央には青いミニのワンピース(スクール水着モチーフ)を着た少女が一人、行き過ぎようとする金魚に手を伸ばそうとしている、そういう表紙であったのです。

これが本当に素敵な表紙だものだから、レトロな世界を舞台に語られるSF、ファンタジーを期待して買った人も多かったようですね。けど、開けてびっくりですよ、結構ハードなエロ漫画なんです。Amazonみるとアダルト指定されていますけど、実際には成年指定されておらず、そのためアダルトものと気付かず買ってしまう事故が多発したと聞きます。思いがけないエロに、それもロリ色の強い内容にショックを受けたものも少なからずあったでしょう。ですが、戸惑い持て余してしまったケースの影には、これをきっかけとして目覚めてしまったものもあったはずです。

え、私ですか? この本と出会った書店はですね、見本を一冊用意して、冒頭数ページを確認できるようにしていてくれたのですよ。そう、そういう内容であることをわかったうえで買いました。だから私に関しては、知らずに買ったんだ、こんな内容だなんて知らなかったんだ、なんて言い訳はないのです。表紙が好きだから買いました、内容も好きそうだから買いました。実際それがすべてであります。

けれど、もしこれをエロとしてのみで評価するなら、私には非常に厳しいものがあります。基本的に重く、暗く、つらく、痛ましいのです。実際、ハッピーエンドといえるものといったら、冒頭の「ヨトギノクニ」くらいしかないんじゃないか? けど、これにしても終わりに至るまでのシチュエーションが絶望的に痛ましく、確かに内容を見れば純愛なんだけれど、悲しすぎるよ。悲しすぎるのですよ。

こうした悲しさややりきれなさが三浦靖冬の持ち味なんだと思います。愛されない女の子の悲しみがあれば、暴力的な衝動に突き動かされるままに愛する少女を傷つけてしまう……、自責と後悔が描かれて、痛ましい性描写とそれ以上に痛ましいシチュエーション、読んでいてなんともいえない悲しみに包まれるんです。そして私は、エロとしてはひたすらに明るいものが好きだから、そうしたものしか受け付けないから、この人のエロは忌避しつつ、しかしその物語られる情深い世界には引きつけられてやまないのです。だから私はこの人の描いたものが出れば、きっと必ず購入して、やはりその陰鬱な世界に深く身を沈めるのです。

もしこの物語で性描写が控えめならばと思ったことはありますが、それはただ広く人に勧められるからというだけのことで、エロがいけないと思うからではありません。こういう前提をご理解いただいて、この人にもっと光が当たり、広く知られるようになったらよいなと思っています。あなたがもしエロを気にしないという人であるなら、この人のことを知って欲しいと思います。

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