2007年10月29日月曜日

あっちこっち

 実は、四コマ漫画であれこれ書くのは非常に難しいのです。これはとりわけきらら系列に顕著で、理由は簡単、気を抜くとどの漫画に対しても同じようなことを書いてしまうから。あるいは、面白いと思っていながらも、その面白さを言語化しにくいということもあるからかと思います。このへん、明確な物語の流れを持った漫画については書きやすく、だってその漫画の持つ面白さの独自性云々をそれほど考えないでもいいですからね。物語を追うことで私の感じたことを書けばいい。しかもありがたいことに、作者の側で物語が独自のものになるよう工夫されてますから、なおさら楽というわけです。と、なんでいきなりこんな愚痴じみたことを書くのかというと、先達て買いました『あっちこっち』という漫画、面白いのだけど、それを思ったままにただ書いても、多分この漫画の独特の味というのは伝わらんと思ったからなのです。

『あっちこっち』は、高校生の男女が過ごす日常を面白おかしく描いた漫画、ってちょっと違うな。日常に似て若干非日常なのりが楽しいというべきなのではないかと思います。主人公は仲間内から朴念仁とみなされている眼鏡男子、伊御さん。彼のまわりには、伊御さんラブラブの小動物系女の子つみきさんと、天然少女姫、マッドサイエンティスト系お騒がせ娘真宵がわいわいと集まって — 、ここでのキーパーソンはつみきであろうかと思います。さっきもいいましたように、つみきは伊御さんのことが大好きで、口では全然そんなことないかのようにいいながら、態度が好きということをあらわにしている、そんなキャラクターなんです。そんなつみきさんをいかに愛でるか、一種それがテーマといってもいいのかも知れません。真宵の策略、伊御さんの思わせぶりにして大胆な行動言動、表向きにはクールを装うつみきはあっさり撃沈させられて、時にはでれでれにとろけてしまい、時には嫉妬、恥ずかしさのあまりヴァイオレンスに走る。照れている様やら羞恥の様やら、そうしたつみきの織り成す景色を楽しむ、これが『あっちこっち』の味わいの一要素、それもかなり大きな要素であると思います。

でも、これだけではないのです。登場人物を整理してみます。飄々としてけれど実はハイスペックな伊御さん、伊御を上回るどころか疑いなくこの漫画における最強生物であるつみきさん、姫は鼻血をともに状況を加速させ、真宵はアグレッシブにチャレンジし自業自得的に自爆する。そしてここに伊御の友人榊が加わることで成立するスーパーな日常。平穏に見せて実際は常にフルコンタクトな毎日、高高度にて繰り広げられる空中戦をさらっと見せて、しかしこれが姫の大どじ、つみきのでれでれで一気に減速、それまでのハイスピードが嘘みたいににやにやの渦に飲まれてしまいます。

この緩急なんだと思うのです。どちらにしてもオーバーな表現なんだけど、その向かう方向が違うからアップダウンが生じて、その双方が際立ちます。これがもしどちらかだけだったら、この漫画の印象はきっと全然違ってたろうな、今感じている振り回されるよな面白さはなかったのかも知れないと思います。

蛇足

アップダウン、緩急でもっとも鮮烈に際立たされるもの、それはやっぱりつみきの可愛さなんじゃないだろうか。なんて思ったりするものだから、ここは姫がよいのだといっておきたいと思います。

  • 異識『あっちこっち』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
  • 以下続刊

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