2007年6月5日火曜日

24のひとみ

  Clover』のDVDを買ったときの話なんですが、なんと、このDVD、値引きのために1500円を割りまして、そう、このままだと送料がかかってしまうという事態に陥ってしまったのです。だから私はなにか買って送料無料にしようと、例によっていつものごとくAmazonのおすすめをさまよいまして、そんなときに面白そうかなと思ったのが『24のひとみ』でした。これ、少年チャンピオンに連載されている漫画のようですね。商品の説明見てみれば、どうも嘘つき教師が主人公みたいです。嘘つきであることを公言して嘘をつきまくる、そういう漫画であるようで、なんだか面白そうだから内容も詳しく知らないまま注文したのでした。もし面白くなかったら嫌だけど、まあ漫画の一二冊で済むならたいしたことはないかなと、そんな気分だったのですね。

商品の説明には極悪非道なんて文言もあって、実際どんなにひどい嘘がつかれるんだろうと思っていたのですが、思ったよりもさっぱりとした印象で、さらっときれいに流れる感じ。後味の悪さみたいなものもないから、この点はよかったなあと思っています。いや、だってね、極悪非道の嘘つき教師なんていわれると、妙に大げさなドラマが展開された上にいやな後味が残ったりするかもなんて思うじゃないですか。けど、すごく淡々としています。嘘は嘘で畳みかけるように次々次々重ねられていくのですが、あんまりにテンポよく切り替わっていくものですから、深まる暇がないというか、そもそも深める気がないというか。だから、読後感も爽やか。結構ひどい嘘もある、というか、むしろひどいやつの方が多いんですが、とにかくテンポのよさがすべてのネガティブさを帳消しにしてくれるから、嫌だとかむかむかするとか、そういう悪感情も生まれにくいみたいです。

と、こんな具合に、人間的に間違った主人公がのうのうとしてる様を楽しむ漫画であるわけですが、けどもしかしたらだんだんといい人設定になってきたりするんじゃないかな、だとしたらいやだななんて思ったんです。ほら、よくあるでしょう? 話が進むほどにみんな善人っぽくなっていって、最初の粗削りだったころのが面白かったよなみたいなこと。悪人も善人もみんな馴れあっちゃって、面白いんだけどちょっと違うんだよななんてことは往々にしてあります。けど、この漫画に関してはそういう心配はいらないようで、だってそもそも心の通いあうところが絶無といっていいくらいに希薄です。教師と生徒がいて、また同僚教員とのかかわりもあるというのに、そこに人間的情のゆきあうところが見えません。きれいにぬぐいとってあって、馴れあうどころではありません。

だから、口ではひどい嘘をつきながら実のところ生徒を温かく見守っているひとみ先生とか、嘘ばっかりいってるどうしようもない人だけど、俺達、先生のことわかっちゃってるからさあ、みたいな生徒は出てこないし、今後も出ることはないでしょう。嘘つき教師は、純然たる機能として要請されるままに嘘をつき、生徒を、同僚を、あるいはたまたま関わっただけの人を振り回し、突き放し、傷つけて、そして嘘をつかれるほうは歩み寄ろうとしては阻まれ、理解しようとしてはあきらめ、どうよこの乖離感。ここまで徹底するとむしろすがすがしいと思います。少なくとも、なんとなくいい話にもっていっちゃいましたというような、微妙な展開にむずがゆくなることがありません。この徹底ぶりは素晴らしいと思います。

けれど、ここまで後味の残らないというのは、テンポや型の徹底だけの問題ではないでしょうね。この漫画が基本的に感情移入を拒んでいるからだと思っているのですが、ひとみ先生は悪意ある風なことをいいますが、その台詞に現実味はなく、言葉の向こう、表現の向こうに心のあるようには思われない。この無機的なところ、悪意のあるようでそもそもなにもないという空白な感じが、嫌悪感を増幅させることなく笑いにとどめさせる最大の要因なのでしょう。だから、もし心や感情といった類いを感じさせる表現でもってこの展開をされたとしたら、面白い面白くないの以前に、きっと私は耐えられなかったと思います。

  • 倉島圭『24のひとみ』第1巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,2006年。
  • 倉島圭『24のひとみ』第2巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,2007年。
  • 倉島圭『24のひとみ』第3巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,2007年。
  • 以下続刊

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