2007年6月2日土曜日

とめはねっ! — 鈴里高校書道部

 書店平積みにて遭遇、表紙に大筆掲げた娘が元気一杯にかかれた『とめはねっ!』という漫画、その表紙からもタイトルからも書道ものというのが明らかです。そうかあ、再び書道の漫画が出てきたかと、ここで私は『ラブレター』を思い出して切なくなりました。『ラブレター』は、元気な娘と真面目な娘が書道にて切磋琢磨するという漫画で、面白かったし好きだったんですが、人気なかったんでしょうか、結構残念な終わりかたしました。竜頭蛇尾な印象、残念で仕方なかったです。こんな具合に書道漫画には変なトラウマみたいなんがありまして、だから『とめはねっ!』みたときも素直には手に取ることができず、けれど書道というあえて地味な題材に取り組もうとしているところに敬意を表したいと思い、買って、そして読んでみたのでした。

面白かったです。地味だけど、まあそれは題材が題材だから仕方ないとは思うんだけど、けれどこの漫画自体もちょっと地味目の印象。背景を含む全体的に書き込みはあまりされないタイプ、線も最小限まで整理されていて、そのためか画面が非常にすっきりとして感じられます。でもまた逆にこれでもって不安になるんですが、っていうんは、面白いと思って先を楽しみに読んでたら、急に慌てて畳んで終了みたいになったら嫌ですよってこと。いやね、ほんまに打ち切りというのは、作者もきっとそうだと思うんですが、楽しみに読んでいた読者にしてもショックなものなのです。

『とめはねっ!』は、主人公は男の子、だと思ったんですが表紙からしたらこっちの娘か。柔道部期待の新人望月結希がひょんなことから書道に取り組むことになってしまった、というのが基本のところ。字を書くのが苦手で、コンプレックスといってもいいくらいであるのだけれど、持ち前の負けず嫌いも手伝ってか、腰を据えて習字に取り組もうという、そういう意気込みが気持ちいい漫画であります。

そして、もう一人の主人公格、大江縁、ちょっと気弱な一年生男子。筆まめな祖母の字を手本に、カナダにて八年手紙を祖母と交換し続けたという、そういうバックグラウンドが斬新だなと思いまして、というのはこの主人公格二人で綺麗に対比が作られていると思ったものですから。男子と女子、能筆と悪筆、まったくの未経験と小学校で多少経験、そして気弱と強気。弱っちい男子に強気女子が出会って、男子は女子にほのかな憧れを抱いてるんだけど、女子にはそれがちっとも通じないといったような、繊細と大胆という対比も面白いかも。こうした、まったくもって対照的な二人が、対照的な取り組み方で、対照的な字を書いていくという、こういう構図、仕掛けはすごく楽しいと思えるものでした(そういや『ラブレター』も対照的だったな。天然と努力、破天荒と整然)。

書道という地味ながらも深く、面白い芸術の場を舞台に繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガールものとして読んでも楽しそうだけれど、第1巻の時点ではそういう雰囲気はまずもって皆無で、だからこれからどうなるのかなというのがまた楽しみなところで、大江縁は自信を持てばきっと堂々とした字を書くのだろうという気がするからまあいいとして、問題は望月結希でしょう。実は私は習字をやっていたからわかるのですが、書くものの中に美しい字のイメージというものが存在しないと、字というのは上達せんのです。まさしくそれが私。手本を前に習ってみても、長年染みついた悪筆の癖、悪いイメージが邪魔をしてうまく書けない。素直に美しい書字に向かってきたものは、それだけですでに有利。つまり、望月は不利からのスタートなのですよ。だから余計に面白いと思うんです。果たして彼女の字をどのように育てるか、彼女がどのように変わるのか、それがすごく興味深くて楽しみなのです。

さて、実は私は今は字を書いていません。諸般の事情で習いにいけなくなったし、それに時間の問題もあってなかなか書けない。今、私がギターに取り組んでる時間をすべて字に注いだら、きっとがらりと違う字を書けるようになるとはわかっているんだけど、それは結局はギターが弾けなくなるという問題を引き起こすわけで、ああひとりの人間に与えられたリソースはなんて少ないんだろうと悲しくなります。でも『とめはねっ!』読んだら、また無性に字を書いてみたくなってきました。けど今度書くなら、自分一人でやるんではなくて、こうしたクラブ活動するみたいにしてできたらどんなにかいいだろう。刺戟にもなれば張り合いもありそうだと、そんな風に思います。

ところで、河合克敏って『帯をギュッとね!』の人なんですね。そうかあ、道理で投げが綺麗なわけだ。というのは置いておいても、こういう情報を知れますと、長く続いて、長く楽しめそうな予感がしますよね。ほんと、これからの展開を心待ちにしたいと思います。

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