2007年6月7日木曜日

メイド諸君!

 書店にいったら『メイド諸君!』の第2巻が出ていて、以前に読んで、どうにもつかみあぐねて気になっていた漫画でありましたから、なにをおいてもまずこれを読んでみて、そしたらなんか以前にくだくだややこしいこといってたのが馬鹿みたいに、普通に読むことができました。タイトルにもあるように、メイドが主人公の漫画。といっても家政婦としてのメイドではなく、メイド喫茶の従業員を巡る漫画です。おそらくヒロインは二人。お上りさん、関西弁がキュートなちょっとのんびり系、千代子と、メイド喫茶の秩序に命を懸けているのか、妙にかりかりとして官僚的な言説態度が光る歩がそうで、この実に対照的な二人を描くことでなにをかを表現しようとしているのだと思います。そしてそれはおそらくは、自我であるとか自立であるとか、そういった方向なんじゃないかなと思っています。

けど、その反面ものすごくおたくにとって都合のいいファンタジーが、これでもかこれでもかと盛り込んであって、正直私は読んでていたたまれなかったよ。これ、絶対わざとだと思う。自分に自信の持てない、対人関係に自信の持てない、そういった自分が行きつけの店の女の子にほのかに恋心を抱いたと思いねえ。知りあいたいが手段がない、話しかけたいがきっかけがない。そんなとき、都合よくその子の身に起こったトラブルを助けたり、そうしたら向こうから興味を持ってくれたり、ってなにこの妄想を見透かしたような展開は! 絶対これ、わざとですよ。こうした展開を、わざとあざとさをともに見せることで、おそらくはおたくであるだろう読者に対してチャレンジしてるんです。被害妄想なのか知れませんが、けど私にはそうとしか思われない。これはお前たちの、ちょっとずれた妄想の物語なんだよと、耳元でささやく声が聞こえそうなぐらいですよ。

けどそれが面白いんですね。妄想がぶちまけられたような展開をストレートに受けて、思わずにまにましながら読むのもよし、反面そのチャレンジしてくる厳しさに身もだえするのもよし。私は現状では半々かなあ。少なくとも物語が動き出した分、1巻よりも楽しみやすいと思いますし、この時点で通読すればまた新しい読み方もありそうだなと、そういう感じです。

私は思っているのですが、きづきあきら、サトウナンキの漫画は、綿密に作られているように見えるけれど、読者の判断に委ねられる領域というのもかなり広めにとられていて、だから読者はその時々の自分の問題をその余地に注ぎ込んで、漫画を自分に引き寄せるようにして読むのだと思います。なので、こういう読み方がマッチする人にはすごく面白い、あるいは意味のあるものとして読めるのだと、そしてあるいは漫画をその実際以上に広く深くして読むのだと思います。

もしかしたら買いかぶりすぎているのかも知れないということはままあります。ですが、それでも私の突かれたくないところを、絶妙な加減で押してくれるものですから困ります。突かれたくないはずなのに、突かれると嬉しくなる。変な話ですが、けどきづきあきら+サトウナンキファンには多かれ少なかれそういった気があるんじゃないかなと思っていて、だからみんな、これは私の物語なんだ! とか思ってるんです、きっと。そしてそう思わせるうまさがあるのだと思います。

蛇足

三角の口して、変な顔になってる野口歩がむやみやたらと可愛く感じられます。生意気なくせにうぶ、いい感じにおたくっぽいという、私の好きなタイプかも、と思う人は多いはずだ。けど、現実に出会うと厳しいことも多いから、やっぱり歩も千代子もファンタジーなんだよなと思う次第。あーあ、現実ってつまんないよね。

  • きづきあきら,サトウナンキ『メイド諸君!』第1巻 (ガムコミックスプラス) 東京:ワニブックス,2006年。
  • きづきあきら,サトウナンキ『メイド諸君!』第2巻 (ガムコミックスプラス) 東京:ワニブックス,2007年。
  • 以下続刊

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