2006年11月11日土曜日

メイド諸君!

 きづきあきらの新刊が出ていたので買って参りました。その名も『メイド諸君!』。タイトルからもわかるように、ここ数年流行のメイドを題材にした漫画です。けど作者がきづきあきらだからなあ(どうも警戒しないではおられないらしい)。おそるおそる読みはじめてみれば、舞台がメイド喫茶。一種おとぎの世界にふと迷い込んできた、これまでおたく業界とはまったくといっていいほどに関係なかった女の子がヒロインです。で、私は最初面食らってしまったんでした。この漫画はどのように読んだらいいんだろう。つうか、いったいなに? 出てくる人たちの大半はおたくで、しかもきづきあきらフィルタを通ったおたくで、どちらにしても受け入れがたさが先に感じられて、なんなんだろうこの違和感は……。と、初読の感想はこんな具合であったのです。

あまりに受け入れられない場合は、ちょっと間を置いてみるというのが私の常です。で、間を置いてみての感想は、この漫画はもしかしたらいわゆるお約束をテーマにしているのだろうか、というものでした。舞台となっているメイド喫茶というものがそもそもある一定のお約束をベースにして成立している空間であるわけで、ここで提供されるサービスというのは、喫茶などではなく、お約束どおりにロール(役割)を演じるということに他なりません。そうした、求められるロールを果たすということの重要性は実際この漫画においても語られています。

と、そこへお約束を諒解していない人間(ヒロイン)が投げ込まれることによって、ここに劇的要素が生じるのかなと思いまして、ヒロインが反定立(アンチテーゼ)とすれば、定立(テーゼ)はお約束をなによりも大切に考える人、あるいはこれは領域の問題と考えてもいいかも知れない。決められた領域の中で、決められた型どおりに振る舞うということは、ある一定の範囲にとどまるならば有用で、規範からの逸脱は問題となるケースもあります。ですが逆に、あまりに行き過ぎたお約束は、その下にある個別の事例をすりつぶす肉挽き機のようなものでしかないのかも知れない。こうした、お約束をめぐる境界線の問題がテーマなんじゃないかなどと思ったわけです。

いや、わかりませんよ。私がそんな風に思ったというだけの話で、実際のテーマがどうかは2巻以降をまつ必要があるでしょう。

けれど、やはり私はこの漫画をお約束をめぐる物語として捉えようとしています。お約束は普通と捉え直してもいいかも知れない。普通にとどまること普通から逸脱すること。逸脱したものに対し、普通の冷たくあたること世の常の習わしといってよいくらいに頻繁で、すなわちここに普通は見事個別の事例をすりつぶす肉挽き機として機能します。普通とはその成員に対し同質であることを求めるプレッシャーで、そのプレッシャーがあるがゆえに、外れものは迫害される。ここまで書けば言い過ぎかも知れませんが、あまりに普通であるものたちは、自分たちの残酷さに気付いていない、私にはそんな風に思えてならないんです。

『メイド諸君!』がどのような漫画であるかは、この先を待ちましょう。私のこの記事は、迷惑な先入観にもなりかねません。だから私自身もこうした見方を、心のどこかにとどめたまま、読むたびごとに新たな気持ちで向き合いたいと思います。しかし、この先は一体どうなるんだろう。この先が、私の想像だにしない世界だとしたら面白いとそんな風に思っています。

  • きづきあきら,サトウナンキ『メイド諸君!』第1巻 (ガムコミックスプラス) 東京:ワニブックス,2006年。
  • 以下続刊

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