2006年11月10日金曜日

眠れる惑星

  なんだか妙に気になるんだけど、なぜか集めようという気持ちにブレーキのかかってしまうのが陽気婢という人なのです。繊細そうな絵柄で、ちょっとファンタジー、ちょっとサイエンスフィクションをやる人というような印象が私にはあって、そしてもう一点はずせない印象はというと、ちょっとエロまじりってところでしょうか。絵柄からも話からも思うんですけど、多分この人は生真面目な人で、その感触は決して悪くないと思うんですが、買おうかどうかかなり迷ってしまいます。なんでなんだろう。はまる人はきっと容易に抜け出せないくらいにはまってしまうというようなタイプの漫画家だと思います。だから、私はそういうのを怖れてるのかも知れません。あるいは、なんか見透かされたような気持ちがするから、ちょっと距離を置きたいと思っているのかも知れません。

けど、偶然本屋で見つけた『眠れる惑星』の第2巻、なんだかひかれるものがあって、数日迷ったんですが、結局買ってしまいました。これ、どういう話かというと、ある朝突然、主人公淳平少年以外のみなが眠りから覚めなくなった、とそういうお話。このへん、実にSFチックであると思います。こうした異常事態下における人間の行動うんぬんというのは、結構SF古典で見られるテーマだと思うのですが、私はSFに詳しいわけでもないのでぼろが出ないうちに黙っておきます。して、この主人公以外が目覚めないという状況を打破する方法はなにかというと、これがさっきエロまじりだといった陽気婢の面目躍如だと思うのですが、淳平が関係を持つことで相手を覚醒させることができる、とそういう話になっているのです。

なんて都合のいい! っていったらまあそのとおりで、まさしくハーレム状態なのですが、けれどこうしたハーレム状況を成立させながら、話を純愛系に向かわせようというところが、やっぱり最初にお話したように、この人の繊細で生真面目であるという所以であると思います。

これ、主人公を楽天的な性格に置いているからそれほど悲壮感もなくて、ちょっとコメディっぽかったりもするんですが、もしこういうシチュエーションに自分が置かれたらどうなんだろうなあなんて思うと、私は基本的にネガティブな方向に引っ張られている人間ですから、きっとものすごい破滅的なことになっちゃうんじゃないだろうかなんて思ったりなんぞして、けど、そういう不安をまったく描いていないというわけでもないから、読んでいて非現実感にくらくらするというようなことはありませんでした。特に、なぜ人は覚めない眠りに落ちてしまったのかということがまったく解明もされず、謎のままに置かれている(第2巻時点)ため、目覚めた登場人物の一部にはやみくもに不安が募ったりと、こういうところの描写は結構好みです。不安の中、それぞれがそれぞれの思うあり方を探し、選ぼうとしているというのでしょうか。確かに鍵こそは淳平少年でしょうが、淳平少年という軸を離れたところで触れられる個々人のエピソードに妙に実感のこもるところを感じて、むしろ私の興味は周辺にこそあるという感じです。

けど、やっぱりこの漫画の軸には淳平少年があって、そして彼には常にセックスがつきまとうわけで、だから私はこの漫画を読んで、なんのかんのいっても人間はとどのつまりセックスなんだろうかと思って、悲しくなってしまったのでした。別に私は性的営為を否定したりはしないのですが、けれどそればっかりというのはどうなんだろうと、なんだかぼんやりとした空しさが残ります。

一体どの口でいうてんの? って感じでしょうが、本当にそう思ったんだからしょうがありません。けど一体なんでこんなことを思うんだろうと考えれば、それはこの人の漫画になんだか無常観みたいなのを感じるところがあるからかも知れません。と、最後まで人のせいにしておこうと思います。

  • 陽気婢『眠れる惑星』第1巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2006年。
  • 陽気婢『眠れる惑星』第2巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2006年。
  • 以下続刊

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