2008年12月12日金曜日

ゾンビロマンチシズム

 新しい雑誌に出会うということは、これまで知らずにいたものに知り合えるということでもある。そんなことを思うのは、『コミックエール』で初めて知った漫画家が結構あったからなんですね。しかも結構なヒットと申しますか、好みである、気になる作風である、思わず既刊の有無をチェックしてしまったりしましてね、こうして新たに触れた世界が、さらに世界を広げるきっかけとなるのもよくある話です。新しいなにかに出会ったことがきっかけで、また別の違うなにかを知る。結局、人間っていうのはこうしたことの繰り返しでものを知っていくのかな、そんなことを考えたりもするのでした。

さて、本日12日は『コミックエール』と『まんがタイムきららフォワード』のコミックの発売日であります。雑誌掲載時に気になってしかたのなかった睦月のぞみの漫画が単行本になるということで、ちょっと楽しみにしていたのでした。そのタイトルは、『ゾンビロマンチシズム』。この、奇でもてらったのか、異質なことばをふたつ繋げてみたとでもいわんがばかりのタイトル。そのインパクトはなかなかのもので、そして実際、雑誌に掲載されていたときの異質さ、それもまたなかなかに忘れがたいものでありました。

この人の漫画を意識した最初は、『人斬り恋愛ロジック』でした。辻斬り女子高生に出会った主人公が、命惜しさに起死回生の告白をしてしまうという、衝撃の幕開き。のっけからとばしすぎだ! と思ったのですが、これがまあ気になること気になること、もう先を読まないではおられん気持ちになって、それで話を先に進めたら、その辻斬り女子高生が可愛いんです。まいったなあ。日本刀、長髪、長身、スレンダー。凛々しさの中に、かすかに照れをにじませる、その様がもうどうしようもないほど可愛らしくて、これはたまらんなあ。主人公ならずとも、引き付けられるのも無理ないわ。それほどに魅力的、でもそれだからこそ、辻斬りしているという設定に心がかき乱されるというのですね。

でも、だからこそ、あの展開にはちょっと参りました。えーっ、こうくるの!? ていうか、そりゃないよ、すっかりコメディ、喜劇じゃないか! って、まあいうまでもなく最初からコメディだったんですが、でもそうした喜劇的落差に腰砕けになったところに、再度ちょっとシリアスな心の揺れ動きをもってくるから、変にしんみりしちゃいましてね、なんだか面白くも気になる漫画だったなあ。そんな風に思ってしまったんです。

この後に始まったのが、ゾンビものの連作でした。「リサイクリング・ビューティー」、そして「ゾンビロマンチシズム」。それにしても、なぜゾンビなんだ。疑問は疑問ですが、でもこの作者はエキセントリックが売りみたいだから、これはこれで面白そうだ、そんな風に思えたくらいには、馴染んでいたのでしょう。そして、実際面白かったと思います。ゾンビとの共存が実現した社会。その異様で異質な社会構造もエキセントリックですが、そこに恋愛がからむところもまたエキセントリックで、そして主人公がエキセントリック。変人さ加減では、「ゾンビロマンチシズム」のヒロインが頭ひとつふたつ抜けていました。恐ろしく自己完結した、そんな印象のあるヒロインには変にいらいらさせられるかも知れません、それに男の煮えきらない態度、そこにもいらいらするかも知れない。でも、その行きつ戻りつする心の弱さやらままならなさが、コメディにひと色添えていたように感じたのも事実でした。時におかしみを付加し、そしてせつなさやちょっとほろりとくるような感情のうるおい、そうしたものも付加して、ああ恋愛ってやつは滑稽で、しかしなかなかに悪くないものだねと、そんな思いにたどりつく、紆余曲折含めての道のりが面白かったのでした。

漫画としての表現しかたについては、少し生硬なところも感じないではないのだけれど、けれどそれを上回って興味をそそらせるものがある、なんか気になって仕方のない、そんなところがある、実に不思議なあるいは妙な作風だと思います。それは結局はエキセントリックであるというところに落ち着くのかも知れませんが、でもそれは目立ちたがりが奇をてらった結果ではなく、ただ単純に着眼点がすごく独自なのだろうなと思わせるような素直さを持った独特であるのです。そしてそうした特性は、多かれ少なかれ、登場人物みなが持っていて、だからなんでしょうね、紆余曲折ありながらも、最後にはまっすぐに向かいあうのは。そうした幕切れに、私は変に心が動いて、やっぱりなんだか気になる漫画だなって思うのです。

  • 睦月のぞみ『ゾンビロマンチシズム』(まんがタイムKRコミックス エールシリーズ) 東京:芳文社,2008年。

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