2008年8月11日月曜日

ラディカル・ホスピタル

 ラディカル・ホスピタル』も連載開始から十年が経とうとして — 、改めて確認すると驚きますね。私が読みはじめたのは、『ラブリー』で連載されるようになってからだから、八年ってところかな? けれど、それでも結構な年月です。そりゃもう登場人物も増えれば、ナースも結婚、妊娠、出産しようというもの。第15巻では近藤ナースの妊娠がメインの話題をさらって、ただでさえ幸い感の強いこの漫画が、なおさら幸いな感じに包まれて、もうたまらんですね。子供を授かる喜びと不安、そして仕事に向かう姿勢、そうしたものがぐるぐると混ざり合いながら、母となる人にフォーカスが当たっていく。その描きようが素晴らしいと思います。

15巻のメインの話題はナースの妊娠、そういってもいいくらいの重みを持って描かれるエピソードですが、同時にその時々の時事医療ネタがあり、そして近藤看護師の抜けることを予測して看護師が増員されるなど、目玉となるようなエピソードがてんこ盛りで、読みごたえはかなりのもの。しかもその新しい看護師麻生さんが、働く若いお母さんという、これまでなかったタイプであったから、伴い展開される話も新鮮味をもって、面白かったです。そして、この新しいキャラクター付けは妊婦である近藤にも大きく関わりを持って、相乗的に膨らんでいくのですね。方やベテランナースでこれから産む人、方や新人ナースでもう産んだ人、それぞれに得て知っているものが違うから、どちらもが先輩でかつ新人でという、ちょっと面白い関係が生じています。

描かれたものというのは、仕事をする人が母になるということ、母である人が仕事をするということ、なんだろうかなと思います。気を使う同僚があれば、気を使われることがプレッシャーやストレスにもなる。急な入院で穴を開ければ、職場が心配だったり、母体が心配だったり、そしてこれは看護師もの特有のことであるのかも、いつも看護する側である人がされる側に回ることで気付くこと、思うこと、もろもろ。母になろうとする人の思いや、プロフェッショナルとしての意識、そしてともに働く同僚たちの相互の気持ちが、次々とかたちを変えて、視点を変えて押し寄せて、本当に充実の一冊でありました。しかも、まだ出産にはいたらない。クライマックスは次巻! であるというのですから、先が楽しみで、本当贅沢な2冊になりそうな予感です。

私はこのあたりの流れはもう連載で読んでますから、どうなるかわかってるんですけど、単行本のおまけ、書き下ろしの数ページが本当に気の利いたもので、素晴らしいのでした。一連の流れを補足して、受け止めて、閉じてくれる。余韻もあれば、前向きにもなれて、こうしたうまい締めが、なおさらに読後感をよいものにしてくれる。ああいい話だった、いい漫画だと、そう思ってページを閉じて、幸いな思いにしばしたゆたうのですね。

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