2008年8月16日土曜日

男の仕事場 / 毎日がメンズデー

 こいつはなんだか面白そうだと思って買った、九州男児の『毎日がメンズデー』。しかしそれは失敗でした。いや、だって『男の仕事場』の続編だなんて知らなかったんですよ。九州男児について詳しいわけでもないし、またジャンルについてもよく知っているとはいえない。ましてやタイトルが違う、といったわけで途中から読みはじめる羽目となって、いや、我慢できなかったんですよ。『男の仕事場』を入手するまで置いておこうかなと思ったのですが、やっぱり興味があって買ったもの、ふと手に取ってぱらぱらと見て、そうしたらすっかり読み込んでしまって、これはよさそうだ、頭から読み直してそう思って、『男の仕事場』を入手してみれば、より以上に面白く感じてしまって、やっぱりこの人の漫画はよいなあと思ったのでした。

この漫画のよいところ、それは感情を描きつつも、そうした感情がなぜ生じたかをきちんと理解させてくれるからだと思うのです。やけに理屈っぽい、けれどその理屈が感情の行方をうまく説明して、導いていってくれるような気がするんですね。導かれるもの、それは漫画の登場人物であり、そして読者である私であり、ああ、そうか、それならノンケである彼が男性に魅かれてしまってもおかしくない、ノンケである彼がたくさんの男の中から彼を選んだのはこういうことだったのか、そうか、男が男を好きになり、さらには関係を持つのは、むしろ自然なことだったんだ! いや、ちょっと待って、というか、BLを読んでると、どうもそっち側に引き摺られてしまうな。

感情の生まれる理由、それを言葉で説明してしまうのは、むしろこの人特有の洒落、ギャグなのでしょう。人間も含めて生物とはそういうものなんだよ、そういう風にできあがってるんだ、といわれたら、感情も気持ちもへったくれもない、それこそ即物的で身も蓋もないと思いますし、実際、そう思わせることこそがあの理屈で説明することの目的でしょう。そして、きっと事態はその理屈どおりに進み、けれどそこには理屈どおりという印象はないのです。たとえ理屈はそうだったとしても、しかし彼らの思いは確かにそこに、その時、あったんだから。むしろ生物としての基本デザインがそうなっていると説明されることが、そして登場人物がそうした本能的なものに抗おうとしながらも、それでも相手に引かれていくということが、彼らの気持ちをより強固なものにしていると思われて、これは素晴らしい。九州男児は面白くそしてためになるなと思わないではいられないのですね。

以上のような感想は、『男の仕事場』に対してというより、この二冊に収録されている『バイオスフィアの男達』にこそ強く感じられて、これを読み終えるころには、そうか、男が男を愛することは別に変でもなんでもない、むしろ自然なことなんだ、って思えてくるくらいです。そして私は、この人の漫画は、男にこそ面白いんじゃないかと思うのですが、『男の仕事場』を読んで、そこに描かれている男らしさというもの、その描写に笑ってしまえるような男なら、きっと九州男児の漫画はとても面白いと思う。けど、あれ見て怒り出してしまうような人には、駄目でしょうね。でも、あれ見て怒る人、男を馬鹿にしてる! などという人、きっと私はそういう人は嫌いです。男が男らしくあろうとすること、そのナンセンスさまでたっぷり描いて、そしてそうした面もまた面白いものだから、なおさら私には向いた漫画であるのかも知れません。

ちょっと余談ですが、今、私の働いている職場に本来的な意味でマッチョな男性が一人ありまして、例えばその人の男らしく食べる様、私はいやでいやで仕方がない。その人の職場の女性に対する振舞い、眉ひそめないではおられない。多分こんな自分だからこそ、マッチョをあのように描く九州男児に、あれほどの面白さを感じるのだと思います。あるいは、共感でしょう。私は九州男児の漫画に、自分の感じているなにかを見付け出してしまうのだと思います。

  • 九州男児『男の仕事場』(kobunsha BLコミックシリーズ) 東京:光文社,2006年。
  • 九州男児『毎日がメンズデー』(kobunsha BLコミックシリーズ) 東京:光文社,2008年。
  • 以下続刊?

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